ビジネス

BBCとセガが組んだオービィ横浜 世界初の超体感空間が誕生

 横浜のみなとみらい地区にオープンした「Orbi Yokohama(オービィ横浜)」は、BBC(英国放送協会)の映像をゲーム開発やアミューズメント施設運営を行なうセガの最新技術で展示する超体感ミュージアムだ。8月のオープンから1か月で10万人を超える入場者が訪れた同所について、五感・身体と社会の関わりをテーマに、五感生活研究所代表として取材や多くの講演を精力的に行う作家の山下柚実氏がリポートする。

 *  * *
 シロクマがのっそのっそと氷の上を歩く。厳寒の北極、そそり立つ氷壁の映像。降り注ぐ太陽の光を受けて巨大な氷は溶け始め、やがてドーンというすさまじい音とともに崩れ落ちた。

 あっ。崩壊した氷の下から、もわっと白い霧が膨らんでいる。それは次第に観客席へと迫ってくる。私の肌も霧で濡れてしまった。まるでシロクマが棲む世界に自分も居るような不思議な臨場感。

 次に、別の驚きが待っていた。マイナス20度、猛烈なブリザードが吹いている部屋へ。じっと立っていられない。目も開けられない。息が吸えない。みるみる体温が奪われていく恐怖。「ペンギンはさらに過酷な風速50mの中で数か月を過ごします」という解説を聞き、生まれて初めてペンギンへの尊敬がこみ上げてきたのだった。

 ここは横浜のみなとみらい地区にある商業施設「MARK IS みなとみらい」5階の『Orbi Yokohama(オービィ横浜)』。8月19日にオープンした新しい施設だ。大画面に映し出された氷の世界は、BBC(英国放送協会)が50年をかけて取材してきた大迫力のドキュメンタリー映像。テレビでも、「BBC EARTH」という番組名でおなじみだ。

 しかし、大自然の映像をただ「見せる」施設ではない。「超体感できるミュージアム」なのだ。

 別の部屋は、また奇妙だった。グロテスクなコモドドラゴンの姿が映し出される。赤い舌をチロチロ出しながら、獲物をねらっている。シャーと威嚇しながら、獲物に飛びかかったその瞬間。

 突然、画面が暗くなった。コモドドラゴンの姿が消えてしまった。何がおこったのか。と思った時、暗闇の中で私の足首をささっと何かが触ったのだ。足音だけが不気味に響く。私の足に触れたのはまさか……? ゾクゾクっと鳥肌がたつ。

「映像を見るだけでなく、五感で感じていただくために工夫を凝らしました」とセガ・エンターテインメントパーク事業部クリエイティブディレクター、長谷川敦彦氏(45)は語った。

「セガがこれまで手がけてきた車・飛行機のドライビングゲームや格闘技の疑似的感覚を楽しむ遊びの技術と、『大自然』というテーマを合体させた世界初の試みです」

 幅40m×高さ8mという日本最大級の画面「シアター23.4」は、大型スクリーンを3つ並べ境目をなくす最新技法を駆使した。「画面の横幅をワイドにすることによって、より没入感を高める狙い」だという。

 さらに本物の霧を噴射したり、風や匂い、接触感覚を再現したりする仕掛けをドキュメンタリー映像とクロスさせることで斬新な臨場感を生み出した。

 手を動かすと、等身大の象やキリンが反応して動くコーナー、床に振動装置を仕込んでアフリカの草原を移動する130万頭のヌーの群れにいる疑似体験ができる空間……館内には12の個性的なエキシビションが揃っている。

「我々がこんな空間を作りたいとデザインし、それを実現させるための技術を世界中から集めました。日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、シンガポールと多国籍のスタッフが参加しています。iPhoneの中身に世界のテクノロジーが集まっているのと似ているでしょう?」と長谷川氏。企画・運営はセガ、映像の提供・制作はBBC Worldwide Limitedが担当している。

 今、日本のゲームセンター市場は縮小の一途をたどっている。アミューズメント施設の市場規模はピーク時から3割ほど減少し、転換期を迎えている。集客力ある新たなアミューズメント施設の開発に、業界は四苦八苦している。

 一方で、消費者は忙しい。24時間という限られた枠の中で、時間の取り合いが起こっている今。新しい施設へ足を運んでもらう「動機」をいかに作り出せるか。「意義」を明快に示すことができるか。

 オービィ横浜には特徴がある。「一粒で3度おいしい」時間を提供しようとしている点だ。「体感的刺激」と「教育的要素」と「異次元空間」。楽しいと同時に、役に立ち、非日常の癒やしも得られる。肌の刺激、匂い、音。ワクワクすれば子供たちは放っておいても好奇心を抱き、大自然に接近し学ぶはずだ。

 情報収集の8割を視覚に依存している現代社会。その現実を反転させて、使い忘れている「2割の感覚」を活用した、世界初の超体感空間が誕生した。

※SAPIO2013年11月号

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン