国内

食品偽装 「それっぽい」部分を切り出すカルビはルール無用

 次々と明らかになるホテルの「食品偽装」。しかし問われているのは消費者の意識でもある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が説く。

 * * *
 「案の定」と思っている関係者も多いだろう。名門とされたホテルや旅館で次々にあらわになる「食品偽装」の話である。

 外食業界における食品表示は基準があいまいだ。だからこそ、時折裏でごまかしが行われてきた。過去、飲食店に刑事罰が科された例では、牛肉のみそ漬けなどの産地偽装に対して、不正競争防止法が適用された例がある。しかしこれは包装された製品であり、飲食店で提供されるメニューではなかった。飲食店のメニューが、景品表示法で引っかかるとすれば、提供するものを著しく優良だと誤認させてはならないとする「優良誤認」だが、直接の罰則規定はなく、ある意味「バレなければやりたい放題」と言える環境でもある。

 メニューに対して、どこまで正確さを求めるかは難しい。例えば代用魚だ。2003年頃までは分類や和名が「ムツ」ではない「メロ」(マジェランアイナメ)を「銀ムツ」として売っていた。現在では「銀ムツ(メロ)」という表示は許されているが、飲食店でここまで徹底した表記を見ることはまずない。客の側にしても「メロ」と書かれても、何が出てくるかわからない。

 今回のような騒動が起きると必ず「規制強化を」という声が大きくなる。だが事業者が「善」であり、なじみの小料理のように店と客に信頼関係があれば、本来ルールなどなくてもいいはずだ。

 例えば焼肉店だ。「タン」「ハラミ」など、明らかに部位の名称=メニュー名となっている部位はともかく、部位として存在しない「カルビ」などはまさにルール無用。ナカバラや肩バラ、トモバラ、肩ロースなどの部位から、店が「このあたりがカルビっぽい」と思える部分を切り出し「☓☓カルビ」として提供している。焼肉は部位とメニュー名の組み合わせが無限にある。そうした引き出しの多さも、また人をひきつける魅力のうちであり、焼肉という食文化の奥深さや神秘性にもつながる構成要素でもある。

 いっぽうホテルのレストランではどうか。例えば、牛ならば高級部位の「フィレ」に似た特徴を持つ部位に、価格が半分ほどの「シンシン」がある。やわらかく、肉の味がしっかりしたフィレにも似た特徴を持つ部位だ。だがシンシンをフィレとして提供すれば、偽装になる。メニュー構成やコンセプトをおろそかにしたまま、ブランドに頼りきる。シンシンのようにまだ消費者になじみの薄い肉の旨さを喧伝することなく、代用扱いする。例え話だが、そうした姿勢や風潮が今回のような騒動につながっている。

 ただし、そうした「ブランド」を求めたのは消費者でもある。この数日、全国のホテルで「ステーキ」として、牛脂を注入した成型肉を提供していた事例が次々に発覚した。まっとうな塊肉と異なり、0-157などの感染リスクもあり、成型肉は、レアやミディアム・レアで提供してはならない。提供側は「ブランド」にゲタをはかせたつもりかもしれないが、結果として客の健康や安全を危険にさらしていたことになる。飲食店での食品表示にルールという縛りがかけられてしまったら、日本の食文化からひとつ深みが奪われることになる。「和食」の世界遺産登録はもう目の前。ブランドに飛びつく食べ手の意識が変われば、店の意識も変わると信じたい。

関連記事

トピックス

小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
会見で出場辞退を発表した広陵高校・堀正和校長
《海外でも”いじめスキャンダル”と波紋》広陵高校「説明会で質問なし」に見え隠れする「進路問題」 ”監督の思し召し”が進学先まで左右する強豪校の実態「有力大学の推薦枠は完全な椅子取りゲーム」 
NEWSポストセブン
起訴に関する言及を拒否した大谷翔平(写真/アフロ)
大谷翔平、ハワイ高級リゾート開発を巡って訴えられる 通訳の次は代理人…サポートするはずの人物による“裏切りの連鎖” 
女性セブン
日本体操協会・新体操部門の強化本部長、村田由香里氏(時事通信フォト)
新体操フェアリージャパンのパワハラ問題 日本体操協会「第三者機関による評価報告」が“非公表”の不可解 スポーツ庁も「一般論として外部への公表をするよう示してきた」と指摘
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
《広陵高校、暴力問題で甲子園出場辞退》高校野球でのトラブル報告は「年間1000件以上」でも高野連は“あくまで受け身” 処分に消極的な体質が招いた最悪の結果 
女性セブン
代理人・バレロ氏(右)には大谷翔平も信頼を寄せている(時事通信フォト)
大谷翔平が巻き込まれた「豪華ハワイ別荘」訴訟トラブル ビッグビジネスに走る代理人・バレロ氏の“魂胆”と大谷が“絶大なる信頼”を置く理由
週刊ポスト
お仏壇のはせがわ2代目しあわせ少女の
《おててのシワとシワを合わせて、な~む~》当時5歳の少女本人が明かしたCM出演オーディションを受けた意外な理由、思春期には「“仏壇”というあだ名で冷やかされ…」
NEWSポストセブン
広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「石破おろし」の裏金議員「入閣リスト」入手!ほか
NEWSポストセブン