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先進国で日本だけ増加する乳がん発症リスクを低減する食生活

 がん登録推進法案がまもなく国会で成立する。この法案は、国内の全病院からがん患者の情報を登録し、種類ごとに発症率や生存率、治療方法などのデータベースを構築して有効な治療や検診方法を明らかにするのが目的だ。英国ではこの登録情報をもとに、罹患率が高い年齢層に検診を奨励して乳がんの死亡率が低下した。先進国の中で唯一、乳がんの死亡率が上昇している日本だが、登録法の運用で対策が進むことが期待されている。

 国立がんセンターがん対策情報センターによれば、2008年度の推計で日本人女性の15人に1人が発症する乳がん。1975年と比べて患者数は約5倍に増え、とくに、40代後半から50代前半に発症のピークを迎えるという。多くの女性にとって他人事ではない昨今の乳がん事情に、今年7月、新事実が判明して注目を集めた。

 科学雑誌「Current Nutrition and Food Science」誌9月号において、“ラクトバチルス カゼイ シロタ株”(以下、乳酸菌シロタ株)」と“大豆イソフラボン”を習慣的に摂り入れていた人に、乳がん発症のリスクが低減するという結果が発表されたのである。

 この研究を行った東京大学大学院医学系研究科教授の大橋靖雄さんは、次のように話す。

「女性の乳がん発症率が増えた原因は、主に3つあげられます。1つは、生理の長期化です。初潮が早まり、閉経が遅くなったうえ、出産率が低下したため、乳がん発生に関わるエストロゲンにさらされる期間が長くなったのです。2つめは、不活発な生活習慣やそれによる肥満。そして意外に大切なのが、食生活なんです」

 乳がん予防についてはさまざまな研究が行われており、身体活動を増やすことや大豆製品の摂取が、乳がん予防に効果があるという科学的な根拠は、すでに挙げられてきた。さらに大橋さんは、膀胱がんや大腸がんの発生抑制効果がある乳酸菌シロタ株に注目。5年前から研究を始めた。

「私たちは、40~55歳の初期乳がん患者306人と、その患者と似た生活スタイルを持つ健康な女性662人に、若い頃からの食生活について面接調査を行いました。まず調べたのは、乳酸菌シロタ株を含むヤクルトなどの乳酸菌飲料を、日常的に摂っていたかどうか。その結果、週4回以上摂っていた人は、それ以下の人に比べ、発症リスクが35%も低いことがわかりました。

 また、大豆イソフラボンについても調べたところ、乳酸菌シロタ株と一緒に摂ると、合わせた効果で乳がん発症率がさらに低くなることもわかりました」(大橋さん)

 ではこの、乳酸菌シロタ株とは、一体どんなものなのか。

「悪い菌を減らして腸内環境を改善する効果があります。また、がん細胞などを攻撃するナチュラルキラー細胞を活性化させることがマウスの実験で確認されています。一方大豆のイソフラボンは、腸内細菌で代謝され、乳がん予防効果が高いと考えられているエコールという物質に変わります。乳酸菌シロタ株を一緒に摂ると、腸内環境のバランスがよくなり、大豆のがん予防効果が高まるようです」(大橋さん)

 どれだけ大豆イソフラボンを摂ればよいのかの線引きはできないが、今回の研究で上位4分の1の人の摂取量、1日40mg以上が目安になるという。これは、納豆1パックや、冷や奴3分の1丁程度だ。

「大豆や乳酸菌シロタ株を毎日しっかりと摂る食生活で、乳がんは予防が期待できます」(大橋さん)

 大豆イソフラボンを摂取しやすい食事といえば、やっぱり和食。豆腐の味噌汁や納豆、冷や奴と、乳酸菌シロタ株をあわせて摂る食事は、それほど構えずとも実践しやすい。無理がない食生活の延長で、乳がん発症リスクが低減できるのだから、少しだけ、毎日の食事に気を配るのが得策だろう。

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