国際情報

佐藤優氏「日本はロシアとウクライナの諍いに深入りするな」

 ウクライナ情勢を報じる日本の大メディアはクリミアを編入したプーチン露大統領を批判するばかりだが、鵜呑みにすると状況を見誤る。単に対露強硬姿勢を取るのでなく、プーチン氏の論理を知った上で同氏の「次の一手」を見通さなければならない。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が指摘する。

 * * *
 日本は両国の諍(いさか)いに深入りする必要はない。ウクライナ新政権の中には、反ユダヤ主義、ウクライナ民族至上主義を掲げる政治エリートが少なからずいる。この人たちは、反ロシアという政治的観点から親欧米の立場を取っているに過ぎない。人権、自由、民主主義などの価値観を米国、EU(欧州連合)、日本などと共有しているわけではない。ロシアが毒蛇ならば、ウクライナは毒サソリのようなものだ。

 ただし、ロシアによるクリミア編入を認めずに弾劾するのは、北方領土交渉を考慮に入れた場合、当然の反応だ。北方領土交渉が妥結して四島の返還が実現し、択捉島とウルップ島の間に国境線が確定したとする。それから数年後、北方領土のロシア系住民が住民投票でロシアへの編入を求めたとする。その場合に、ロシアが今回のクリミアの事態を先例として、軍隊を派遣して北方領土を奪取する可能性があるならば、そもそも北方領土交渉を行なう意味がなくなるからだ。
 
 日本としては、北方領土に日本人を定住させる政策をすぐに策定して、実現する必要がある。そのためにはロシアを非難するだけでなく、北方領土で共同経済活動を行なう枠組みの策定を探らなければならない。安倍晋三首相とプーチン大統領の政治決断が必要だ。
 
 3月24日、オランダのハーグでG8(日米英仏独伊加露)からロシアを除いたG7の首脳は、6月にベルギーのブリュッセルでG7首脳会合を開催するとし、同月、ロシアのソチで予定されていたG8サミット(主要国首脳会議)をボイコットすることを決定した。現時点で、G7が団結してロシアに「国際社会のゲームのルールを一方的に変更してはならない」という強いメッセージを送る必要はある。

 ただし、それが行き過ぎると、ロシアがG8に見切りをつけて中国に接近する可能性がある。中露の本格的な戦略的提携が実現すると、中国が尖閣諸島を力によって奪取するシナリオが高まる。ロシアを中国に接近させないことが日本外交の戦略的課題だ。

※SAPIO2014年5月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

9月6日から8日の3日間、新潟県に滞在された愛子さま(写真は9月11日、秋篠宮妃紀子さまにお祝いのあいさつをするため、秋篠宮邸のある赤坂御用地に入られる様子・時事通信フォト)
《ますます雅子さまに似て…》愛子さま「あえて眉山を作らずハの字に落ちる眉」「頬の高い位置にピンクのチーク」専門家が単独公務でのメイクを絶賛 気品漂う“大人の横顔”
NEWSポストセブン
川崎市に住む岡崎彩咲陽さん(当時20)の遺体が、元交際相手の白井秀征被告(28)の自宅から見つかってからおよそ4か月
「骨盤とか、遺骨がまだ全部見つかっていないの」岡崎彩咲陽さんの親族が語った “冷めることのない怒り”「(警察は)遺族の質問に一切答えなかった」【川崎ストーカー殺人】
NEWSポストセブン
最新機種に惑わされない方法とは(写真/イメージマート) 
《新型iPhoneが発表》新機能へワクワク感高まるも「型落ち」でも充分?石原壮一郎氏が解説する“最新機種”に惑わされない方法
NEWSポストセブン
シーズンオフをゆったりと過ごすはずの別荘は訴訟騒動となっている(時事通信フォト)
《真美子さんとの屋外プール時間も》大谷翔平のハワイ別荘騒動で…失われ続ける愛妻との「思い出の場所」
NEWSポストセブン
選手会長としてリーグ優勝に導いた中野拓夢(時事通信フォト)
《3歳年上のインスタグラマー妻》阪神・中野拓夢の活躍支えた“姑直伝の芋煮”…日本シリーズに向けて深まる夫婦の絆
NEWSポストセブン
学校側は寮内で何が起こったか説明する様子は無かったという
《前寮長が生徒3人への傷害容疑で書類送検》「今日中に殺すからな」ゴルフの名門・沖学園に激震、被害生徒らがコメント「厳罰を受けてほしい」
パリで行われた記者会見(1996年、時事通信フォト)
《マイケル没後16年》「僕だけしか知らないマイケル・ジャクソン」あのキング・オブ・ポップと過ごした60分間を初告白!
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
『東京2025世界陸上』でスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
《テレビ関係者が熱視線》『世界陸上』再登板で変わる織田裕二、バラエティで見せる“嘘がないリアクション” 『踊る』続編も控え、再注目の存在に 
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン