国際情報

仏紙の風刺画掲載の是非「議論自体に意味がない」と佐藤優氏

 表現の自由か、宗教への冒涜か。仏・新聞社「シャルリー・エブド」襲撃事件は、風刺画の掲載の是非を巡り、世界中で波紋を広げている。が、本来取り沙汰されるべきは、「テロ撲滅」への施策であるはずだ。問題設定を間違えると道を見失う、と、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は危機感を覚えている。

 * * *
 筆者は、擬似争点に関心をとられると問題の本質を見失うと考える。擬似争点とは、禅問答の「ウサギの角の先は尖っているか、それとも丸いか」というような命題だ。ウサギには角がない。存在しない角の先の形態について議論をすること自体に意味がない。

 今回のテロ活動を巡って、風刺画掲載の是非について議論すること自体に筆者は意味がないと考える。

 今回の3人の犯人は、「ムハンマドを戯画化するな」という主張を掲げてテロを起こしたわけではない。

 彼らの要求は、〈フランスが、今戦っている「イスラム国」やイスラムと戦っている場所から手を引くこと〉である。言論に関する要求を行っているわけではない。

「イスラム国」としては、国際世論に衝撃を与えることができるマスメディアならば、「シャルリー・エブド」でなくても標的はどこでもよかったのだと思う。フランスならば、「ル・モンド」紙やAFP通信社を襲撃して、無差別殺人を行っても、目標は達成できたはずだ。

 ただし、「ル・モンド」紙やAFP通信社は警備が厳重なので、襲撃が失敗する可能性がある。警備状況による襲撃の難易度と社会的影響を比較考量して、テロリストにとってコストパフォーマンスがよい「シャルリー・エブド」紙を狙ったのだと筆者は見ている。

「表現の自由か、信仰心の尊重か」という議論は、イスラムの信仰に対し、欧米のマスメディアがより配慮した姿勢を示すと、テロの原因が除去されるという誤った方向に世論を誘導する危険がある。

 この問題で国際社会が混乱すると、その隙を衝いて、「イスラム国」はテロによって政治目的を達成しようとする。

 イスラム過激派に配慮して、全世界の新聞や雑誌がムハンマドの風刺画を掲載することを止めても、「イスラム国」に共鳴するテロリストは、ヨーロッパ、ロシア、アメリカなどでテロ活動を続ける。テロリストに対する譲歩は一切必要ない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
《悠仁さま成年式》雅子さまが魅せたオールホワイトコーデ、 夜はゴールドのセットアップ 愛子さまは可愛らしいペールピンクをチョイス
NEWSポストセブン
LUNA SEA・真矢
と元モー娘。・石黒彩(Instagramより)
《80歳になる金婚式までがんばってほしい》脳腫瘍公表のLUNA SEA・真矢へ愛妻・元モー娘。石黒彩の願い「妻へのプレゼントにウェディングドレスで銀婚式」
NEWSポストセブン
昨年10月の総裁選で石破首相と一騎打ちとなった高市早苗氏(時事通信フォト)
「高市早苗氏という“最後の切り札”を出すか、小泉進次郎氏で“延命”するか…」フィフィ氏が分析する総裁選の“ウラの争点”【石破茂首相が辞任表明】
NEWSポストセブン
万博で身につけた”天然うるし珠イヤリング“(2025年8月23日、撮影/JMPA)
《“佳子さま売れ”のなぜ?》2990円ニット、5500円イヤリング…プチプラで華やかに見せるファッションリーダーぶり
NEWSポストセブン
次の首相の後任はどうなるのか(時事通信フォト)
《自民党総裁有力候補に党内から不安》高市早苗氏は「右過ぎて参政党と連立なんてことも言い出しかねない」、小泉進次郎氏は「中身の薄さはいかんともしがたい」の評
NEWSポストセブン
阪神の中野拓夢(時事通信フォト)
《阪神優勝の立役者》選手会長・中野拓夢を献身的に支える“3歳年上のインスタグラマー妻”が貫く「徹底した配慮」
NEWSポストセブン
9年の濃厚な女優人生を駆け抜けた夏目雅子さん(撮影/田川清美)
《没後40年・夏目雅子さんを偲ぶ》永遠の「原石」として記憶に刻まれた女優 『瀬戸内少年野球団』での天真爛漫さは「技巧では決して表現できない境地」
週刊ポスト
朝比ライオさん
《マルチ2世家族の壮絶な実態》「母は姉の制服を切り刻み…」「包丁を手に『アンタを殺して私も死ぬ』と」京大合格も就職も母の“アップへの成果報告”に利用された
NEWSポストセブン
チームには多くの不安材料が
《大谷翔平のポストシーズンに不安材料》ドジャースで深刻な「セットアッパー&クローザー不足」、大谷をクローザーで起用するプランもあるか
週刊ポスト
ブリトニー・スピアーズ(時事通信フォト)
《ブリトニー・スピアーズの現在》“スケ感がスゴい”レオタード姿を公開…腰をくねらせ胸元をさすって踊る様子に「誰か助けてあげられないか?」とファンが心配 
NEWSポストセブン
政権の命運を握る存在に(時事通信フォト)
《岸田文雄・前首相の奸計》「加藤の乱」から学んだ倒閣運動 石破降ろしの汚れ役は旧安倍派や麻生派にやらせ、自らはキャスティングボートを握った
週刊ポスト
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン