“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
今年8月、東京・港区にある高級フランス料理店「ラ・ロシェル南青山」が、2025年12月末で閉店することを発表し、大きなニュースとなった。
同店のオーナーシェフは料理バラエティ番組『料理の鉄人』(フジテレビ系)で知られる“ムッシュ”こと坂井宏行さん(83)。“鉄人・フレンチの坂井”に何があったのか。閉店の理由を「ラ・ロシェル南青山」で坂井さん本人に直撃した。【前後編の前編】
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閉店の発表がネットニュースで一気に広まりましたね。店に予約が殺到しちゃって、ディナーもランチも閉店までもうほぼいっぱい。嬉しい悲鳴です。そんなに惜しんでくれるなら、普段からもっと来店してくれたらいいのにね(苦笑)。僕は金沢にある国際調理専門学校の校長とかもしていて地方に行くことも多いけど、都内近辺にいるときはほとんど店に顔を出し、各テーブルを挨拶して回っています。
閉店はそりゃ寂しいですよ。南青山ル・アンジェ教会に併設された、ここ「ラ・ロシェル南青山」を開業したのは1999年2月。ブライダル会社「TAKAMI BRIDAL(タカミブライダル)」の社長に「一緒にやろうよ」と声をかけられたんです。僕の「材料を粗末にしない姿勢に惚れた」と言っていただいてね。
当時、結構な金額をかけて内装にも設備にも食器にも、細かいところにまでこだわったから、思い入れもひとしお。「ラ・ロシェル」は山王(千代田区永田町)と福岡にもありますから、閉店後、一緒にやってきたスタッフはそちらに移ったり、独立したり。みんなで26年半もやってきましたからね。
僕が店を辞めたくて閉店するわけじゃありません。閉店の理由は契約切れ。この場所は賃貸だから。僕としてはこのまま店を続けたいけど、しかたがないんです。コロナ禍を乗り越え、お店がちょうど復活したところで、今とてもいい状態。スタッフは定着して安定しているし、“フランス料理の鉄人”としてのイベントの予定も結構入っているし。そんなときに閉店の話が出て……残念です。
コロナのときは、けっこう厳しかったんですよ。酒類の提供禁止でワインが売れなくなるし、営業時間の短縮でほとんどランチ営業しかできなくて。僕の給料は半分にして、スタッフみんなもがんばってくれて乗り切れました。スタッフには感謝しかないですね。
振り返ると、東日本大震災のときも大変だったし、『料理の鉄人』出演前の、1990年代初めのバブル崩壊のときもパタンとお客さんが来なくなりました。1989年に渋谷の東邦生命ビル(現・渋谷クロスタワー)の32Fに大箱を構え、順調にスタートしたところだったから追い詰められました。
踏ん張れたのは、家族やスタッフを守り抜かなければいけない、という気持ちと、もともと楽観的だからかな。それともバカなのか(笑)。思い詰めても悪い方にばかり考えますから、「何とかなるよ」と思うしかない。悪いときもあれば良いときもある。良いときもあれば、悪いときもあるから。
