ライフ

没後400年・徳川家康の生涯 天下をたぐり寄せた「待つ」選択

徳川家康が誕生した岡崎城の前に立つ松平定知氏

 三河の地に生まれ、遠江から天下への階段を駆け上がっていった徳川家康。晩年は駿河で過ごし、75年の生涯を閉じた。今年は没後400年、英傑として知られる武将の歩んだ足跡を、元NHKアナウンサーの松平定知氏が解説する。

 * * *
 豪快で破天荒な信長、ユニークで庶民的な秀吉に対し、家康には老獪でとっつきにくいといったイメージがついて回ります。しかし、あの天下人の陰には、失意と悲しみの前半生があったのです。

 まず3歳のとき、母・於大の方と生き別れます。父・松平広忠は今川義元の庇護を受けていましたが、於大(おだい)の方の兄が義元と対立する織田信秀(信長の父)と同盟したため、広忠は於大の方と離縁します。さらに広忠は今川家への忠誠の証として家康を人質に差し出したのです。家康、6歳のとき。

 ところが、今川家へ送られる途中、なんと護送役によって織田方に売り払われてしまいます。2年後、人質交換のため家康は今川家に送られ、家康が19歳だった1560年に桶狭間の戦いで義元が信長に倒されるまで人質生活が続きました。最も感受性の強い時期の人生が、大人の事情でかくも翻弄されたのです。

 生家・岡崎城に戻った家康は今川家と訣別して信長と同盟を結び、次第に力をつけ、1570年には新しい本城・浜松城を築きます。

 その頃、反信長同盟のリーダーとなった武田信玄が甲州から信長がいる京を目指します。途中、家康の領地である遠江国を無断で通過しようとしました。信長はやり過ごすよう助言しますが、それでは部下に示しがつかないと、若い家康は聞き入れません。信玄軍は三方ヶ原の台地(天竜川と浜名湖の間)を上っていきます。それを見た家康はほくそ笑みます。

「上りきったら、あとは狭い下りの一本道だ。そこを背後から急襲すれば信玄軍を殲滅できる……」

 ところが、家康軍が台地に上ったとき、信玄軍は正面を向いて待ち構えていました。戦い巧者の信玄は家康の考えなどお見通しだったのです。家康軍は大惨敗し、家康は恐怖心から馬上で脱糞し、命からがら逃げ帰りました。

 この1572年に起きた三方ヶ原の戦いのとき、信玄が徹底して家康を追えば、家康の命はありませんでした。そうなれば江戸時代が到来することもなく、日本の歴史は大きく変わっていたでしょう。しかし、信玄は家康を追いませんでした。家康などいつでも討てると思っていたし、すでに病魔に襲われていたので、京への道を急いだのでしょう。その病、やはり重く、信玄は翌年、道半ばで病死してしまいます。

関連キーワード

トピックス

広陵野球部・中井哲之監督
【広陵野球部・被害生徒の父親が告発】「その言葉に耐えられず自主退学を決めました」中井監督から投げかけられた“最もショックな言葉” 高校側は「事実であるとは把握しておりません」と回答
週刊ポスト
薬物で何度も刑務所の中に入った田代まさし氏(68)
《志村けんさんのアドバイスも…》覚醒剤で逮捕5回の田代まさし氏、師匠・志村さんの努力によぎった絶望と「薬に近づいた瞬間」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《ずっと若いママになりたかった》子ども好きだった中山美穂さん、元社長が明かした「反対押し切り意思貫いた結婚と愛息との別れ」
週刊ポスト
連敗中でも大谷翔平は4試合連続本塁打を放つなど打撃好調だが…(時事通信フォト)
大谷翔平が4試合連続HRもロバーツ監督が辛辣コメントの理由 ドジャース「地区2位転落」で補強敢行のパドレスと厳しい争いのなか「ここで手綱を締めたい狙い」との指摘
NEWSポストセブン
伊豆急下田駅に到着された両陛下と愛子さま(時事通信フォト)
《しゃがめってマジで!》“撮り鉄”たちが天皇皇后両陛下のお召し列車に殺到…駅構内は厳戒態勢に JR東日本「トラブルや混乱が発生したとの情報はありません」
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
暴力問題で甲子園出場を辞退した広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《過激すぎる》イギリス公共放送が制作した金髪美女インフルエンサー(26)の密着番組、スポンサーが異例の抗議「自社製品と関連づけられたくない」 
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト