3月22日、福岡の街は朝から霞がかかったように真っ白になった。
「視界が悪くていつも見える山がかすんで見えなかった。買い物に出かけて帰宅しただけで喉がイガイガしました」(52才・主婦)
「お昼前に外に出ると空は白くかすんでいて、車には細かな黄色い粉が積もっていました。花粉じゃない、黄砂だとすぐにわかりました」(40才・パート勤務の女性)
この日飛んでいたのは黄砂だけではない。大気汚染物質PM2.5の値が高くなっているとして、福岡、長崎、佐賀、山口の4県には今季初めて注意喚起が出された。22日午前11時から1時間の大気1立法mあたりのPM2.5の平均濃度は、佐賀県唐津市で163μg(マイクログラム。1μgは1000分の1mg)、福岡市西区で156μgを記録した。
この数値は健康な人でも症状が出るおそれがあると国が定める注意喚起基準(1日平均70 μg)を大きく超えており、各県は外出や屋外での運動を控えることなどを呼びかけた。
この時期になると話題にのぼる黄砂とPM2.5。いったいどのようなものなのか。環境科学が専門の摂南大学名誉教授・宮田秀明さんが解説する。
「黄砂は、中国大陸内陸部のゴビ砂漠などの砂塵が風によって数千mの高度にまで巻き上げられたもので、粒径は4.5μm(マイクロメートル。1μmは1000分の1mm)くらいのものが多いです。春の偏西風に乗って遠くまで運ばれ、日本にも飛来します。土壌物質なので有害性は低いですが、中国の上空を通って日本に飛んでくる途中で化学物質、排ガスなど有害物質が多く吸着しており、昔に比べて黄砂の毒性は高くなっています。
一方、PM2.5は平均的な粒子の直径が2.5μm以下の微粒子のことです。ディーゼルカーの排ガスからでる粒子状物質、工場のばい煙、粒の小さい黄砂、シンナーなどいろいろなものが含まれます」
小さい微粒子は肺の奥深くまで入り込んでしまうため有害物質が人体に大きな影響を与える、と宮田さんはPM2.5の怖さを語る。
「PM2.5はぜんそくなどの呼吸器系疾患の原因となると指摘されていますが、それだけではありません。排ガスやばい煙に含まれる多環芳香族炭化水素は発がん性物質を多く含むため、肺がんの原因になります。さらにもっと細かい微粒子は血液に入り影響を及ぼす可能性もあり、その影響は胸部にとどまりません。中国の大気汚染は酷い状況だといわれていますが、環境対策が追いつかないインドなどの開発途上国全般で、同じような状況が発生しています」
人体に影響を与えるこの2つ。実はまさに今が“シーズン真っ盛り”なのだ。気象予報士の河津真人さんが言う。
「3~5月は毎年黄砂が多い時期で、過去30年間の平均を見ると、4月に黄砂が観測されたのは9日、5月は4.1日となっています。春は中国大陸から日本へ、つまり西から東へ高気圧と低気圧が交互に通過し、西から東へ流れる偏西風が日本上空を通過します。黄砂が発生する砂漠に雨が降り砂塵が舞い上がりにくい夏と違って、冬から春の間は地面が乾燥して舞い上がりやすい。また、春になって温かくなった空気は上空に舞い上がりやすく、黄砂やPM2.5が日本に運ばれてくるのです。今年も平年通り黄砂が飛んでくることが予想されます」
※女性セブン2015年4月30日号