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護憲派が守ろうとしているのは憲法ではなく古い解釈改憲だ

 リベラリズムを標榜し、「安保法制」に反対しながら、独自かつ明快な論理で「護憲派」を厳しく批判して話題になっている『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(毎日新聞出版)。法哲学の第一人者である著者、井上達夫氏に、憲法問題を始め、護憲派、リベラル派が抱える様々な欺瞞についてノンフィクションライターの鈴木洋史氏が聞いた。

 * * *
〈……陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない〉。

 この憲法第九条第2項を字句通りに解釈すれば、自衛隊も日米安保も明らかに違憲です。ところが、「専守防衛の範囲内なら違憲ではない」と主張する人たちがいる。国会で「安保法制」は違憲だと述べた憲法学者の長谷部恭男さんが象徴的存在で、私は彼らを「修正主義的護憲派」と呼んでいます。
 
 彼らの解釈は内閣法制局の旧来の解釈と同じで、すでにそれ自体、解釈改憲です。だから、自分たちと異なる解釈改憲を行った安倍政権を批判する資格はない。
 
 もっとひどいのは、九条を字句通りに解釈する「原理主義的護憲派」です。
 
 本来なら自衛隊と安保の廃棄を求めるべきなのに、違憲だ、違憲だと言うだけで事実上容認している。しかも認知せずに“私生児”扱いしているのに、両者が提供してくれる安全という便益は享受し、しかしその便益の享受を正当化する責任は果たそうとしない。許されざる欺瞞です。

「修正主義的護憲派」が守ろうとしているのは憲法ではなく自分たちの古い解釈改憲だし、「原理主義的護憲派」は現状維持のために九条を戦略カードに使っているだけなんです。

●井上達夫(いのうえ・たつお) 1954年大阪府生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科教授。著書に『共生の作法 会話としての正義』(創文社、サントリー学芸賞)、『法という企て』(東京大学出版会、和辻哲郎文化賞)など。

※SAPIO2015年12月号

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