火野の「不良ぶり」は、たとえば、何十年も変わらずハイライトを吸い続け、減らしたとはいえ、いまなお1日3箱吸っているということからもわかる。撮影中のVシネマ『裏門釈放』の現場でも、カットの合間に路上に出てきては、うまそうに一服しながら、台本に目を通していた。
「いままでどれくらいタバコを吸ってきたんだろうと計算したら、110万本って出た。俺は50年間、110万回もこうやって火をつけてきたんだよ。ハイライトをこれだけ吸ったというのは、世界記録なんじゃないか(笑い)」
麻雀も切らしたことがない。
「いまでもお昼にスタートして、朝までやる。徹夜じゃないとやった気がしないメンバーで。でも、昔は72時間ぶっ通しでやってたからね(笑い)」
タバコと麻雀が最高のストレス解消法という「不良高齢者」なのだ。
「でも俺、役者人生の中で身体の調子が悪くなって仕事を休んだことはないんだよ。それは、丈夫に産んでくれたお袋に感謝している。自転車旅でも、しんどいからという理由で休んだことはないしね」
そんな火野からは、凄い役をとってやろうとか、何が何でも主役を、という欲が見えてこない。1本1本の芝居に対しては真剣なのだが、あくまでも自分のスタイルは崩さず、どこか恬淡ですらあるのだ。だから、タバコも麻雀も少し減らしはしたものの止めることはないし、自分のペースで走れる自転車旅も続くのだろう。
火野は、最近、ある女優からこう言われたという。
「正平さんって、いつ撮影所に入って、いつ帰って、いつ芝居したのか、よくわかんないうちに終わっているよね」
それはまさに、火野自身が理想とする役者のあり方だった。どこまでも渋くて粋な男なのである。
◆ひの・しょうへい:1949年、東京都生まれ。12歳から劇団「こまどり」に所属し、ドラマ『少年探偵団』などで活躍。1973年、大河ドラマ『国盗り物語』の秀吉役で注目を浴び、テレビ・映画に多数出演。主なドラマ出演は『新・必殺仕置人』『長七郎江戸日記』『警視庁南平班~七人の刑事~』『池波正太郎時代劇スペシャル 顔』など。2011年に始まった『にっぽん縦断 こころ旅』では旅人を務め、自然体の人柄で人気を集めている。
撮影■恵原祐二 取材・文■一志治夫
※週刊ポスト2016年10月7日号