たとえば、今年初頭のベッキーと川谷絵音の不倫騒動の際、ベッキーに対して大ブーイングが巻き起こった。その大きな理由が、1回目の会見で川谷の妻に対して謝罪しなかったからである。
この時彼女は「こんな不倫女を使ってるのか!」とクレームを受ける対象であるスポンサーと番組には謝罪をした。だが、一般の人々は最大の当事者は川谷の妻だと考えた。そこに対して謝らなかったからこそ、妻への同情心もありベッキー叩きがあそこまで過熱したのである。
また、乙武洋匡氏の不倫騒動の場合は、なんと最大の当事者である妻が「妻である私にも責任の一端があると感じております」との声明を出した。これは、「被害者である私にも悪い点がある。乙武に対して理解をしてほしい」と述べたと解釈された。
この場合は、「当事者が許しているのだから乙武のことも許してくれ」という策略が透けて見えたため、聴衆の反感を買った。妻本人が反対を押し切って声明を発表したようだが、妻に援護射撃をしてもらった形の情けない男・乙武氏への叩きもついでに加速した(2人はその後離婚)。
その一方、舛添要一前東京都知事のあまりにセコい経費使用疑惑については、「テレビに出ているだけで不快だ」といった理由で「早く辞めさせろ」と全国から都庁にクレームがつく。納税者たる東京都民が言うのであれば、まだ「当事者」ではあるが、「テレビに出ている姿を見せられる」だけで当事者化=被害者化するのである。
今やネットで得た情報をもとに糾弾・批判の電話やメールを関係者に入れる行為は娯楽・趣味と化している。電話代程度で自分が正義の世直し行為をしているかのような感覚に浸れるからである。あたかも当事者のことを慮っていることをアピールしたり、自分自身を強引に当事者に仕立て上げるようなテクニックを人々は繰り出し、クレームを正当化しようと努力をする。
よって、これから何らかの企画をする人は、「自称・当事者」や「当事者配慮者」からのクレームにはご注意を。もちろん本当の当事者には誠意ある対応を。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2016年11月11日号