◆小尿を 流しし床を 拭く われの後ろで歌う 妻に涙す
陽さんは24時間、八重子さんにつきっきりで介護した。しかし何をやるにも妻は抵抗し、夫の頭を叩き、つかみかかる。おもらしをして家中が水浸しになることも珍しくなかった。だが、陽さんは妻に小言ひとつ言わなかった。
「そりゃあ、私だって腹が立って叩いてやりたいと思うこともありました。でもこの病気は、こちらが怒ったりすると、感情を逆なでして余計に病状を悪化させてしまう。だからなんでも受け入れてやらねばならないんです。それにね、いくら叩かれても痛くないんですよ。やはり女房は、無意識のうちに力を抜いているんです。だから私は女房の愛情表現だと思っていました」(陽さん)
こうした細やかな介護のおかげか、八重子さんは発症から10年経っても自力で歩き、「お父さん」「痛い」「ばか」などの言葉を発した。陽さんとのドライブが好きで、そんな時はカーステレオから流れる童謡や歌謡曲に合わせて、うれしげにハミング。歌詞はまったく出てこないが、音程は正確だったという。
「みんな“介護って大変ですね”っておっしゃるけれど、家族の中に、本当に頭がおかしくなった…孫にとってはおばあちゃんであり、娘たちにとってはお母さん。その女房がわけがわからなくなっていくのを、毎日見ていて、そのたびに胸をえぐられるような悲しみがある。
わしは女房がうんちを食べたとき、歯と歯の間にはさまったうんちがなかなかとれなくて、それで口で吸い出しよった。金銭的にも大変。おむつ1つとっても、高い。布団も、着るものも、洗っても洗っても汚れるから、頻繁に買い替えないといけん。毎日食べさせないといけん。介護は生半可なものじゃなか」(陽さん)
※女性セブン2016年11月24日号