◆築82年!?
築地市場で約600の仲卸の店舗やせり場がある平屋建ての「水産物部仲卸業者売場棟」(延床面積2万1585平方メートル)は1934年築という建物だ。80年以上前に建てられただけに耐震性の不安は大きい。
同じく1934年築の「九段会館」(東京都千代田区)では、東日本大震災の震度5強の揺れで1階ホールのつり天井が落下し、2人が死亡、31人がけがをした(現在は閉鎖中)。
実際、今年7月に都が公表した「防災上重要な公共建築物の耐震性に係るリスト」では、かなりはっきりしたかたちで築地の倒壊リスクが示されていた。同リストでは、大地震の揺れに対する建物の強度を算出したIs値(構造耐震指標)を一覧化している。数値が0.6未満ならば「倒壊・崩壊の危険性が高い」という評価になる。
前出の「水産物部仲卸業者売場棟」は0.44。戦後に建てられた「青果部第3卸売業者売場」など4棟でも0.52~0.55という値が出た。リストは都が所有する4498棟の建物を検証したもので、0.6未満は28棟しかないが、うち5棟が築地の建物だ。
低いIs値の建物が震災で被害を出した実例として挙げられるのが、新宿・歌舞伎町にある1966年築の新宿区役所(8階建て)だ。東日本大震災で窓ガラス約130枚が割れ、壁にはひびが入った。
「翌年実施した診断でIs値が0.15~0.52と判り、2年がかりで柱を補強するなど対策を進めました」(同区総務部の担当者)
そうした補強が築地の場合は簡単ではないという。都中央卸売市場の担当者が説明する。
「狭い市場内では工事用の種地がない。工事から出る塵芥が食品にかかる恐れがあるところでは、市場の営業に支障が出る。完全に耐震化工事を達成するのは難しいのが実情です」
ちなみに新築の豊洲新市場の建物の耐震性はどうか。知事ブレーンの小島敏郎・青学大教授が座長を務める市場問題PT(プロジェクトチーム)が耐震性の再検証を続けているが、10月末の会合で設計に当たった日建設計はこう述べた。
「建築基準法で求めているものに対して1.34倍の強度がある。都が求める強度に対して7%大きな値」
豊洲の耐震性に疑義を呈してきたPTのメンバーから反論はなかった。
※週刊ポスト2016年12月9日号