今年も、ドラフト上位候補がいる。清宮と並ぶ左の強打者・安田尚憲だ。安田は「秋に続いて選抜、夏も日本一になりたい」と高い目標を口にしている。一方、大阪桐蔭の西谷は、8歳上の岡田が通った東洋大姫路と兵庫でライバル関係にある報徳学園のOBだ。

 1969年、兵庫県宝塚市に生まれた西谷にとって、小学6年生だった1981年、エースで4番の金村義明を中心に全国制覇を成し遂げた報徳は憧れだった。しかし入学後、1年の冬にチーム内で不祥事が起きて対外試合禁止処分に。最後の夏も暴力事件が発覚して出場辞退となり、3年間で一度も、甲子園に出場できなかった。西谷が言う。

「だからこそ甲子園に対する思いは人一倍強いと思うんです。監督として甲子園に出る度に選手をうらやましく思う。甲子園に足を踏み入れれば『帰って来られた』と思うし、敗れて後にするときは『また戻って来られるのか』と不安になる」

 関西大学を卒業後は母校のコーチを一時務め、1993年から大阪桐蔭のコーチに就任する。岡田と同様、目標としたのはあの学校だった。

「どうやったらPLを倒せるか。そればかり考えていました。最初は、良い選手さえ獲れれば差は縮まると思っていました。ところが、誘ってもなかなか入学してもらえない。PLに『A(クラス)』の選手が行くとしたら、うちにはやや劣る『B』の選手しか来ない。そんな状況でPLと同じことをやっていたら、一向に差は埋まりませんよね」

 PLでは入学した1年生が上級生の付き人となり、身の回りの世話をするのが伝統だった。大阪桐蔭でもそれを踏襲していたが、西谷は改革を断行する。

「PLの1年生が先輩の世話に時間を取られている間、うちの1年生に練習させれば、Bの選手がBダッシュまで成長できるかもしれない。それでようやく、PLと勝負になる。当時の上級生達に頭を下げ、洗濯などを各自でやらせるようにしました。そして1年生には朝の5時から練習を課し、私も付き合いました」

 その後、PLは不祥事が重なり、それが一因となって昨年、廃部に追い込まれた。その過程は新著『永遠のPL学園 六〇年目のゲームセット』に詳述したが、1998年に西谷が監督となった大阪桐蔭が、PLに替わる大阪の雄となっていく。

「ただ、今もPLに追いついたとは思えません。記録でも記憶でも超えられない。それがPLだと思うんです」

 西谷はそう呟いた。

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