美人の本場は名古屋であるのだが、京女も鴨川の水で肌を磨くので美しいし、盛岡(岩手県)や大阪からも美人が上京してくる、というのだ。明治期に名古屋が美人の本場とされていた事実は、建築史家で『美人論』の著者でもある井上章一も指摘している。
矢野新一『名古屋はヤバイ』には、それこそヤバイことが書かれている。矢野はマーケティング・コンサルタントで県民性博士であるという。県民性博士って、どこでそんな博士号を取ったのだろう。子供の「恐龍はかせ」のようなものか。
この本には、三大ブス産地説の根拠を「仙台、水戸、名古屋はともに城下町」であることに求めている。「城下町はよそものを入れなかった」ので「地元育ち同士が結婚」し「他の地方の血が混じりにくい」のでブスが多いという。愛知県の人口は七百五十万人(そのうち名古屋市は二百三十万人)。デンマークは五百七十万人、ルクセンブルクは六十万人。名古屋より婚姻圏が狭いデンマークやルクセンブルクは世界的ブスの産地なのだろうか。
矢野新一は十分ヤバイと思う。
◆名古屋イジメの心理
こうした奇妙な名古屋イジメが広がったのは、そんなに古いことではない。ここ三、四十年のことである。何かの拍子にこれが始まると、あとは連鎖・増幅である。実は本誌「週刊ポスト」もこれに便乗した特集を組んだ。昨夏「名古屋ぎらい」を三号続けて特集した。内容は、いわゆる「あるある話」に終始し、根拠不明の単なる体験論ばかりであった。
これは前年(2015年)、前記の井上章一が『京都ぎらい』を書き、新書大賞を獲るなどしてベストセラーとなったことにヒントを得た企画であった。しかし、井上の『京都ぎらい』は文化論・歴史論エッセイであって、「あるある話」の寄せ集めではない。