「拉致問題解決のチャンスがあれば何とか掴みたい」──日朝首脳会談開催の実現を急ぐ安倍晋三首相の言葉には、対北朝鮮外交で米中韓に先を越され、“出遅れを取り戻したい”という思いが滲んでいるが、米朝合意に自信を持った北朝鮮は「拉致問題は解決済み」という従来の見解を繰り返しており、交渉は難航が予想されるとの見方が強い。では、日本の国益に資する外交交渉とするには、どんな手があり得るのか。
安倍首相は拉致被害者家族との面談で「北朝鮮が被害者をすべて帰すと言ったら(平壌に)行く」と語り、金正恩との首脳会談に意欲を見せた。首相の脳裏には、米朝会談直前にトランプ大統領が北朝鮮に拘束されていた米国人3人を解放させたように、平壌から日本人拉致被害者を連れて帰る自らの姿が浮かんでいるのだろう。
しかし、事はそう簡単ではない。いくら日本側が「まだ被害者は大勢いる」と解放を求めても、北朝鮮が「拉致被害者はもういない」という主張を続ける状況が変わらなければ、交渉は平行線を辿り続けてしまう。
だが、その間にも日本が北朝鮮にカネだけ出させられる事態になりかねない。いや、すでにそうなりつつある。
安倍首相は「拉致問題の解決なくして経済協力を行なうことはない」と強調してきたが、トランプ大統領から、「非核化費用は日本と韓国が負担してくれる」と言われると、一転、「平和の恩恵を被る日本などが負担するのは当然」と支払いを約束した。
英国の投資顧問会社ユライゾン・SLJキャピタルは、北朝鮮の完全な非核化にかかる費用を、「10年間で2兆ドル(約220兆円)」と試算している。途方もない金額だ。このままでは日本は米国に北朝鮮非核化の“ATM”として利用されかねない。