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北川景子は編集者を演じる(時事通信フォト)

 例えば声色。これまでの永山瑛太とは明かに違う発声で、深く響く低音で統一し抑揚を制御する。口調は常に「自分は」「であります」の軍隊調。眉間にしわを寄せ、表情を安易に崩すこともしない。高倉健を彷彿とさせる仏頂面です。

 体の動きもピッと直線的で角度がついていて硬直している。その分、狼狽するとMr.ビーンを彷彿とさせるジタバタぶりがなんとも可笑しい。と無骨な軍人風キャラを丁寧に細部まで作り上げたその上で、コメディーとシリアス、不器用さとピュアさの両極を行き来し、しっかり演技し分けているのが凄い。永山さんが職人的役作りを志向する技巧者であることをこのドラマは示しています。

「朝4時起きで家訓を読み上げる自衛隊員」という極端なキャラ設定も、敢えて意図したものでしょう。言ってみればテーマ性を際立たせるための誇張装置。

 では何を際立たせようとしているのかといえば……夫婦の「価値観の違い」です。ファッション好きなイマドキの妻と堅物夫、その「違い」をできるだけ明確に浮き彫りにするためのカリカチュアなのでしょう。

 このドラマの特徴は、コンセプトがはっきりしている点。夫婦にまつわる普遍的なすれ違いを「リコカツ」というキーワードを通じて描き出す「離婚するかもエンターテインメント」。視聴者は見ないようにしてきたすれ違いを、ドラマを通して考えたり感じたりし自分なりに思い巡らす。答の出ない問いをぐるぐると繰り返す。

「なんで離婚までいっちゃうのか」「相手が好きと思ったから結婚したはず」「素直になれば、良い点もたくさんあるとわかる」「互いに我を張りすぎ。あげた拳を下げることができないなんて哀しい」といった視聴者の感想が目につくように、自らの不満を投影しつつ簡単に破局しないための方策をさぐる。女性視聴者が多い理由はそのあたりにありそうです。

 第7話で咲を追いかける紘一は電車に乗った咲とすれ違いに。車両は動き出し2人の距離は開いていく。という古典的な手法で描かれた別れのシーンも、切ないすれ違いを象徴しています。これからの展開で「サイコンカツ」「フクエンカツ」が待ち受けているのかどうか? 恋愛に不慣れな紘一の中にある大きな愛を、咲が見つけて受け止めハッピーエンド? 

 このドラマの視聴され方のユニークなもう一つの点とは、「結末」があまり問題ではないことです。むしろ、そこに至る過程で思いを巡らすことに意味がある。米津玄師の書き下ろし主題歌「Pale Blue」がしっとりと被さるエンディング。愛とは何かという普遍的なテーマをピン止めする演出が効いています。 

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