プーチン演説がはらむ矛盾
新型コロナの影響で3年ぶりの開催となった今年のイベントは、例年とは趣が異なった。プーチンの演説に如実に表われていた。
「征服を許さなかった勇敢な戦勝者の世代を誇りに思い、彼らの後継者であることを誇りに思う。われわれの責務は、ナチズムを倒すことだ」
プーチンの演説は、第2次世界大戦の犠牲者の追悼から、ウクライナ侵攻に携わっているロシア兵へのメッセージへと変わる。
「あなた方は祖国のために、未来のために、そして第2次世界大戦の教訓を誰も忘れることがないように戦っているのだ。この世界から、迫害する者、懲罰を与える者、そしてナチスの居場所をなくすために」
第2次世界大戦でロシアが戦ったナチス・ドイツと重ね合わせるように、ウクライナ側を「ネオナチ」と強引に結び付けている。
そのうえで、プーチンは演説をこう締めくくった。
「ロシアが行なったのは、侵略に備えた先制的な対応だ。それは不可欠で唯一の正しい判断だった。ロシアのために! 勝利のために! ウラー!(万歳!)」
ロシア兵も「ウラー!」と三唱し、プーチンの演説に応じた。
これまでのプーチンの演説の最後は、「勝利の日、おめでとう!」と呼びかけていた。だが今年は、プーチンは国民に団結を訴え、ウクライナへの侵略を正当化したのだ。
だが、このプーチン演説はいくつかの矛盾をはらんでいる。
そもそも第2次大戦のソ連側の犠牲者2700万人の中には、ウクライナ人も含まれている。戦勝記念日は、世界最大の犠牲者を出したソ連が、犠牲者を悼み、平和を訴えるために開かれてきた。
一方、今年の式典では、ウクライナ侵攻によって、「ロシアの勝利」ばかりが前面に打ち出された。プーチンの思う通りに戦況が進んでいない焦りが背景にあるのだろう。「プーチンの戦争」を美化するために、父親も含めた第2次大戦の犠牲者をプロパガンダのために利用したといってもいいだろう。
プーチンの第2次大戦の勝利と愛国主義を融合する動きは、大統領就任の直後から色濃く出ていた。
当時ナチス・ドイツと戦ったソ連国民の心を支えたのが、ソ連の国歌だった。
「自由な共和国の揺るぎなき連邦を偉大なるルーシ(ロシアの古名)が永遠に固める」
勇ましい旋律で愛国主義を鼓舞している。歌詞に手を入れて完成させたのは、プーチンの祖父が料理人として仕えたスターリンで、自身を賛美する歌詞となった。しかし、スターリンの没後、歌詞が批判されて、演奏しか許されなかった時期が続いた。その後、ソ連崩壊とともに破棄された。
プーチンが2000年に大統領になると、ソ連国歌のメロディを復活させ、ロシアを讃える歌詞をつけてロシア国歌を制定した。