四代目となった竹中正久組長は、鎌倉幕府の二代目将軍・源頼家(金子大地)のポジションだ。竹中組長も頼家も、暗殺によって非業の死を遂げている。竹中四代目は強引な襲名で、頼家は強引な配置換えなどで組織を混乱させた。この時、頼家の専制を抑えるため、梶原景時(中村獅童)など6人の武将、大江広元(栗原英雄)ら4人の文官、頼家の縁者として北条時政(坂東彌十郎)と比企能員(佐藤二朗)、頼朝の家子筆頭として13人の宿老のひとりとなったのが、『鎌倉殿の13人』の主人公である江間義時、後に執権として幕府を牛耳る北条義時(小栗旬)だった。
山口組の北条義時は五代目山口組の司令塔だった宅見勝若頭、山口組五代目となった渡辺芳則組長は、三代将軍・源実朝(柿澤勇人)となるだろうか。宅見若頭らは渡辺五代目を御輿に担ぎ上げながら、その背後で組織運営の実権を握っていた。その一方で独断専行の危うさを回避するため、山口組内にいる三浦義村(山本耕史)のような実力派組長らとは連携を深めた。
五代目の腹心として宅見若頭と反目し、神戸のホテルティーラウンジで宅見若頭を射殺した主謀者とされる喧嘩太郎こと中野太郎若頭補佐は、侍所の別当である和田義盛(横田栄司)といったところか。ちなみに、山口組を絶縁となり抗争に突入した後も、中野会は山口組に一切反撃していない。
またヤクザ社会には「強い者ほど殺される」という格言がある。鎌倉幕府に誅殺された源九郎義経(菅田将暉)、房総の上総広常(佐藤浩市)、頼朝の頃からの重臣である梶原景時、武蔵の畠山重忠(中川大志)らの死はまさにその格言通りだ。
カリスマの独裁が暴力団を成立させるので、西日本では昔から「ヤクザは一代」といわれてきた。だが現代暴力団は寡占化が進んで巨大化し、既得権占有のため新興組織や下克上を認めない。集団指導体制ならトップの資質に左右されず、その下に補佐役を置けば憎まれ役にもなる。トップが象徴で実務をしなければ逮捕もされない。六代目山口組の司令塔はナンバー2の高山清司若頭だ。
人間関係は強烈にその人の行動を規定する。立場が人を作り、その行動も変えていく。カリスマの跡目は誰が継いでも霞むので、大組織の二代目、三代目は似通った運命となりやすい。ある小説家は「人間の置かれた位置と性格を決めれば、登場人物がどう動くか決まる」と言い切った。あとはキャラが勝手に動くという。
鎌倉幕府と山口組が似ているのは、ただの偶然ではあるまい。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。フリーライター。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。
※週刊ポスト2022年12月16日号