この平成リバイバルとも言える広瀬香美現象が起きている背景について、近著『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)で平成文化を紐解いたエッセイストの小林久乃氏が解説する。
「広瀬香美さんの存在は、いつの時代も若者にとっての“憧憬”なのではないでしょうか。彼女のようなモンスター級の高音が出せるのは、天賦の才能であって素人は近づけない。特に小学生くらいから合唱コンクールなどを経験すると、彼女のようなシンガーに対する尊敬度が増すと思います。私みたいに平成に青春期を過ごした人間は、カラオケのマイクをビーチフラッグ状態で取り合い、彼女の曲を歌いまくった思い出があります。まあ、ほとんど歌えませんでしたけど(笑)。
令和の若者にとっては、広瀬香美の世界に浸るスペースが当時のカラオケからSNSになっただけではないか、と思います。『踊ってみた』はもちろん、ショート動画なら『歌ってみた』でもあの音程にトライしやすい面もあるのでしょう」
平成の「わかりやすさ」がウケている
平成期にカラオケで青春を謳歌した世代が親になり、その子どもも同じアーティストにハマる。そんな現象はドラマでも見られると小林氏は言う。
「そもそも新刊の『ベスト・オブ・平成ドラマ!』も、動画配信サービスで平成ドラマの検索率が非常に高い、というところから企画が立ち上がり、ドラマオタクの私に白羽の矢が立ちました。往年の平成ドラマ人気が再燃したのは、自粛期間中に各局が行った再放送がきっかけだったそうです。男女の純愛をテーマにした『愛していると言ってくれ』(TBS系列・1994年)など、令和の若者には新鮮に映ったのでしょう。
広瀬香美さんの曲にも平成ドラマに近いものを感じます。令和の楽曲にはない、わかりやすい歌詞が特徴です。それをあの高音で歌われると、いっそう興味をそそられる。何かと煩雑な時代だからこそ、平成の“わかりやすさ”は本当に大事だと思います」