「病院に行きたがらない親」にどう接するべきか
私は著書『80歳の壁』で、健康寿命を長く保ち、幸せな老後を過ごすために「80歳を過ぎたら我慢をしない」という生き方を提唱しました。ある年齢を超えたら「健康のために」と我慢や無理をするのではなく、好きなものを食べ、やりたいことをやったほうが幸せに元気に生きることができる、という考え方です。
節制や運動、周囲への気遣いなどは、それを快くできるなら別ですが、我慢や無理をしながらでは、かえって心身の負担となります。高齢者専門の精神科医として長年務めた経験から、これまで頑張ってきたのですから、もっと自分を喜ばせるための行動をするほうが、高齢の方の健康には寄与するはずであると確信しています。
一方、現在50代後半から60代の人のなかには、「親が言うことを聞いてくれなくて困っている」という声があるのも事実です。老いた親になるべく長く健康でいて欲しいとの願いから子供が親を心配する気持ちはわかりますが、子供の側も、親御さんの心身に起きている変化や、高齢者医療の実態を把握する必要があります。
病院はどこまで“あて”にできるのか
「病院に行きたがらない親に困っている」という人は、日本の医療がどこまで“あて”にできるのか、本当に病院に行かなければ健康は保てないのか、という点を考えるべきではないでしょうか。
それを考える上で、私は次の3つについて申し上げたいと思います。
まず1つ目に、医療機関で実施する「健康診断」について。日本人の平均寿命が初めて50歳を超えた1947年頃、男女の平均寿命の差は3、4歳ほどでした。それが現在は6歳以上に差が広がっています(厚労省「令和3年簡易生命表」による平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳)。
もし、「健康診断を受けたほうが長生きできる」のであれば、この結果はおかしい。
今の80代の男性は、職場などで定期健康診断が当たり前になってから50年くらい、健康診断を受け続けてきた人が多い世代です。反対に、今の80代の女性は専業主婦だった人や勤めていたとしてもパート勤務が多く、職場での定期健康診断はそもそも受けてこなかった人のほうが多い。
もし健康診断を受けることが長生きに寄与するなら、男女の平均寿命の差は縮まるか、逆転しないとおかしいはず。それなのに、結果は逆です。健康診断を受けてきた男性よりも、受けてこなかった女性のほうが平均寿命が伸びている。これが、先の問いについて考えるときの1つ目のポイントです。