それでも睡眠薬や抗不安薬を服用する人は多い。大橋医師の患者のなかには、「肩こりや腰痛改善のため」に飲んでいる人もいるという。
「睡眠薬や抗不安薬は依存性が高く、そのため服用を続ける75歳以上の患者さんが多いのですが、その理由は不眠症だけではない。ベンゾジアゼピン系薬には筋肉の緊張を和らげる作用があり、20~30年前には肩こりや腰痛の訴えに朝昼晩と1日3回分が処方されていた。新規の患者さんでも『長年飲んできたからまた処方してほしい』と訴える方がいらっしゃいます」
しかし、それは大きなリスクを伴う。
「これは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用していた高齢の患者さんのケースですが、夜中の薬が効いているうちに尿意を催し、フラフラな状態でトイレに起きたところ、転倒してしまった。起床後も薬の成分が残ると、日中のふらつきを訴える方もいます」(大橋医師)
減らすのは1歩ずつ
睡眠薬や抗不安薬を服用していた人の転倒では、「死亡事例」もある。医療事故の再発防止に取り組む「医療事故調査・支援センター」が2019年に公表した入院中の高齢者の転倒・転落による死亡11例のうち、ベンゾジアゼピン系を服用していた患者は4例、その他の睡眠薬は2例あったという。同センターの提言書では、転倒などのリスクがある高齢者にはベンゾジアゼピン系薬の使用は「慎重に行なう」と提言されている。
では、漫然と服用を続けてきた睡眠薬や抗不安薬はどう減らせばいいのか。
「1日3回服用していた方には『昼を抜いて1日2回にしましょう』と提案するなど、“1歩ずつ”減薬を進めます。高齢者の睡眠薬の使用で大事なのは、『頓服(症状に応じて服用)』にすること。毎日飲む習慣を変えることがポイントです」(大橋医師)
日本医師会らが指摘するように「抗うつ薬」や「抗精神病薬」では、副作用で思わぬ症状に悩まされるケースもある。
秋津医師のもとに「パーキンソン病」の治療で通っていた80代女性は、別の医療機関の精神科で処方された抗精神病薬との併用により、こんなトラブルに見舞われた。秋津医師が語る。
「女性が他院で処方された抗精神病薬には、手足の震えなどが生じる『パーキンソン病徴候』の副作用がありました。そのせいで、私が処方したパーキンソン病治療薬がなかなか効かなくなってしまった。少しずつ抗精神病薬を減らすことで改善していきました」