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菅内閣焦らなければロシア人は北方領土問題さえ知らなかった

 民主党政権の外交は「世界史上最低の外交」と語る大前研一氏。その中でも同氏がキツい評価を下すのはロシアとの北方領土問題である。

 * * *
 ロシアとの関係が冷え込んだのも、民主党政権の幼稚な外交が原因だ。メドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問したことに対し、前原外相は「日本固有の領土だ」と抗議し、対抗措置として河野雅治・駐ロシア大使を召還した。普通、大使の召還は戦争の一歩手前でやることであり、日露戦争の時でも日本は駐露大使を召還してはいない。

 ロシアの国営放送局RTR(エルテーエル)のニュース番組「Вести(ヴェステ)」では、メドベージェフ大統領の国後島訪問に日本がこれほど興奮している理由は、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で中国にいじめられた落ち目の菅内閣が失地を回復しようとする窮余の一策ではないか、と解説していた。

 実は、これまでロシアのメディアは北方領土問題をほとんど取り上げなかった。学校で教えてもいない。だから大半のロシア人は北方領土問題を知らなかった。関心もなかった。ところが、今回の問題に関してはRTRが極めて詳しく報じた。

 もともと北方領土はロシア固有の領土であり、それを第2次世界大戦に勝って取り戻したにすぎない(連合軍により与えられた、という表現をしていた)、大統領が自国の領土を訪問することに日本が抗議するのは理不尽な内政干渉だ、というラブロフ外相の見解に、野党の政治家までが同調した。その結果、今や北方領土問題は全ロシア人の関心事になってしまったのである。

 これまで自民党は「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行ない、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言に基づき、「アヒルの水かき(水面下)」で「2島先行返還・2島継続協議」を目指してきた。

 一方でプーチン以降のロシアは、国境問題を次々と解決している。その方法は、歴史的な経緯にこだわらない「面積等分」だ。まず2004年、中国との間で係争地となっていた大ウスリー島について面積を二等分することで決着させた。さらに2010年4月、ノルウェーとの間でもバレンツ海の境界について「面積等分」方式で合意に達し、40年に及ぶ論争に終止符を打った。これをロシア国民は全面的に支持した。

 北方領土問題についても、2009年5月のプーチン首相来日時に「面積等分」方式による「3.5島返還」論が取り沙汰された。ロシア側が日本側に事務レベルで打診していたと思われるが、直前になって情報がリークされたため、日本国内で反発が噴き出してご破算になった。

 つまり、ロシア側は北方領土問題も「面積等分」で解決しよう、という心の整理ができていたのである。実際、ノルウェーとの境界画定交渉で基本合意に達した直後にメドベージェフ大統領は「日本との間にも国境問題があるが、両方がイマジネーションを豊かにすれば解決できない問題ではない」と述べた。これは明らかに「面積等分でいこう」というサインだったのである。

 にもかかわらず、メドベージェフ大統領の国後島訪問に前原外相が抗議したため、ロシアは態度を一変させてしまった。いまロシア議会では、北方領土問題は妥協の余地なし、日ソ共同宣言は反故だ、という議論が台頭している。かくして自民党の半世紀に及ぶアヒルの水かきは、すべて水泡に帰したのである。

※SAPIO2011年1月6日号

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