国内

キリン社長 「会社の方針だから」という説明はダメだと指摘

キリンビールをはじめとする酒類事業から、飲料・食品、医薬事業まで、幅広い事業展開を見せるキリングループ。2007年には創業100周年を迎え、それを受けて「次の100年」を見据えた長期経営ビジョンを策定し、新たな成長戦略を打ち出している。「100年経営」を標榜するキリンホールディングス・三宅占二社長に、その狙いと現状を聞いた。

* * *
――改革ビジョンを決めても、いざそれを社内に浸透させるのに各社苦労しています。どのような工夫をしました?

三宅:大きな方針を作る際は、もちろん現場の声や実態を吸い上げますが、最終的にはトップダウンです。ただ、それを浸透させる際には現場の社員の「腑に落ちる」ように説明しないといけない。「会社の方針だから」という説明では、社員には届かない。

――つまり、社員一人ひとりに納得してもらうということですか。

三宅:そこが一番大事だと思うんです。私自身、若い時に上司から、「何か指示された時には、『はい、わかりました』ではなくて、『それはどうしてですか?』と質問しろ」と言われてきました。しかも、「返ってきた答えに、また『どうしてですか』と繰り返せ」と。それを5回続けるようにと言われたんです。

普通の人が上司だと、2回目か3回目で面倒くさくなって、「うるさいな、お前。それは会社の方針なんだよ!」と言ってしまう。そういうリーダーではダメなんです。現場も、自分が腑に落ちるまで、上司にどうしてなのか聞き返さなければ、自分が成長しない。問いを繰り返すことによって思考が深まり、問題の本質が見えてくる。それができるためには、自由闊達な組織風土が大切なのです。

――三宅社長は、その上司の言葉を実践してきた?

三宅:生意気な奴だったと思いますよ、若い時は(笑)。

――改革ビジョンを浸透させていく時にも、その考え方を貫いたわけですか。

三宅:そうですね。長期ビジョンを最初に社外に公表した06年当時、私はキリンビールの社長でしたが、まずはビジョンの達成に向けて、あるべき組織風土を社員に語りかけました。

目指すは、経営陣と現場といった上下の距離が短く、お互い自由闊達にものを言い合い、一人ひとりが仕事を通じて自分の成長が実感できる組織風土にしたいと。そのために、当然ながら部門間の壁などはなくして、「横連携」しよう、「チームキリン」でいこうと、いろいろな部署に出向いて話しました。

かつて私は、キリンビールの社員は「上向き」「内向き」「箱文化」だと評したことがありました。上司の都合ばかり窺っているのが上向き、自分の部門のことしか考えないのが内向き、自分の枠の中に閉じこもって外へ出ようとしないのが箱文化。それではダメなんですと。

それらに相反する言葉が、「横連携」と「チームキリン」です。そこで、営業、物流、製造の現場から担当者やリーダーを一か所に集めて議論させるフォーラムなどの場を作ってきました。

――何か変化はありましたか。

三宅:例えば、工場で白衣を着て品質管理を担当している人と、飲食店に行って生ビールのおいしい注ぎ方を教えている営業の人が議論しているうちに意気投合するわけです。そんなに品質管理に気を使っているのなら、営業現場はもっと売らなければ。営業がそこまで一生懸命やっているのなら、品質管理をもっとしっかりしなければ、と響き合うわけですね。横連携が重要だという意味が腑に落ちてくる。

また、こちらから議論のやり方を提示することもあります。例えば「質問会議」という方法。ルールとして、「意見」を言ってはダメで、許されるのは「質問」だけというものです。

まず、問題提起をする人がいて、「店頭で品切れが起きてしまう」「残業が多くなってしまう」といった今自分が直面している課題を提示する。周りの人は、「どういった時に品切れがあるのか?」などと質問だけを投げる。意見は言わない。そうすると、悩んでいた本人が自分の中から課題の本質や答えを導き出せる。その答えをグループの中で共有して、業務の改善につなげていくんです。

――「腑に落とす」ための方法論をいろいろと工夫しているのですね。

三宅:キリンホールディングスの社長になってからは、現在の連結子会社は海外も含めて285社に及ぶので、そうしたキリングループ全体の社員が一丸になれるような意識の醸成が、まさに今、私に求められている仕事だと思います。

■聞き手/阿光豊(ジャーナリスト)

※SAPIO2011年1月6日号

関連記事

トピックス

9月6日から8日の3日間、新潟県に滞在された愛子さま(写真は9月11日、秋篠宮妃紀子さまにお祝いのあいさつをするため、秋篠宮邸のある赤坂御用地に入られる様子・時事通信フォト)
《ますます雅子さまに似て…》愛子さま「あえて眉山を作らずハの字に落ちる眉」「頬の高い位置にピンクのチーク」専門家が単独公務でのメイクを絶賛 気品漂う“大人の横顔”
NEWSポストセブン
川崎市に住む岡崎彩咲陽さん(当時20)の遺体が、元交際相手の白井秀征被告(28)の自宅から見つかってからおよそ4か月
「骨盤とか、遺骨がまだ全部見つかっていないの」岡崎彩咲陽さんの親族が語った “冷めることのない怒り”「(警察は)遺族の質問に一切答えなかった」【川崎ストーカー殺人】
NEWSポストセブン
最新機種に惑わされない方法とは(写真/イメージマート) 
《新型iPhoneが発表》新機能へワクワク感高まるも「型落ち」でも充分?石原壮一郎氏が解説する“最新機種”に惑わされない方法
NEWSポストセブン
シーズンオフをゆったりと過ごすはずの別荘は訴訟騒動となっている(時事通信フォト)
《真美子さんとの屋外プール時間も》大谷翔平のハワイ別荘騒動で…失われ続ける愛妻との「思い出の場所」
NEWSポストセブン
選手会長としてリーグ優勝に導いた中野拓夢(時事通信フォト)
《3歳年上のインスタグラマー妻》阪神・中野拓夢の活躍支えた“姑直伝の芋煮”…日本シリーズに向けて深まる夫婦の絆
NEWSポストセブン
学校側は寮内で何が起こったか説明する様子は無かったという
《前寮長が生徒3人への傷害容疑で書類送検》「今日中に殺すからな」ゴルフの名門・沖学園に激震、被害生徒らがコメント「厳罰を受けてほしい」
パリで行われた記者会見(1996年、時事通信フォト)
《マイケル没後16年》「僕だけしか知らないマイケル・ジャクソン」あのキング・オブ・ポップと過ごした60分間を初告白!
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
『東京2025世界陸上』でスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
《テレビ関係者が熱視線》『世界陸上』再登板で変わる織田裕二、バラエティで見せる“嘘がないリアクション” 『踊る』続編も控え、再注目の存在に 
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン