ライフ

がん治療最前線の温熱療法「専門医が知らない」で設置率5%

 抗がん剤の有効性と危険性が論争の的となるなか、その副作用を軽減し、従来の抗がん剤・放射線・手術によるがん治療の効果を高める「ハイパーサーミア(温熱療法)」が注目を集めている。

 ハイパーサーミアは、高周波を利用するサーモトロン-RF8という装置で、体の表面から深部まで加温する治療法だ。元来、熱に弱いがん細胞を摂氏42~44度で死滅させる目的で開発されたが、最近ではがん周辺の正常な細胞を42度以下の低い温度で活性化させ、免疫力を高める働きのほうも注目されている。がん細胞内への薬剤の取り込み量が増大し、放射線の効果も増強されることも分かってきた。

 福岡県北九州市の社会医療法人共愛会戸畑共立病院の今田肇・がん治療センター長は、放射線、化学療法併用のハイパーサーミアで効果を上げている。「最大の利点は、抗がん剤の量を減らしてその副作用から患者さんを解放し、長期にわたる治療が可能になることです」(今田氏)

 肺がんに抗がん剤とハイパーサーミアを併用した場合、がんの消失・縮小効果を表わす奏効率は、薬剤単独の倍以上という。群馬大学第一外科の浅尾高行准教授は、直腸がんの手術前に行なう温熱化学放射線療法により、進行がんでも人工肛門がいらない肛門温存手術の可能性が高まるという。

「群馬大では術前の放射線療法に、温熱療法と化学療法を併用しています。3者併用では、顕微鏡で見てがんが消失した例が27.4%、CTや内視鏡でがんが認められない例が54.9%になりました。新しい肛門温存手術により進行下部直腸がんの自然肛門温存率は90.2%に上っています」(浅尾氏)

 ハイパーサーミアは脳と眼球を除くあらゆる部位のがんに適用可能で、副作用がほとんどない。しかし、治療施設は全国で約70か所と、まだまだ不足している。普及しない理由は、一連の治療をまとめたものに対して保険点数が決められており、何回治療しても定額で、医療機関にとって経営上のメリットが少ないこと。設置施設が全国のがん診療拠点病院中5%にも満たないため、がんの専門医がこの治療法を理解していないといったこともある。

※週刊ポスト2011年3月11日号

関連記事

トピックス

劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン