国際情報

カダフィ大佐 殺し屋に狙われた際影武者のお陰で助かってた

 東日本大震災の一方で世界が注目しているリビア情勢。独裁者のカダフィ大佐がこれまで政権を維持できた秘密の一つを落合信彦氏が明かす。

 * * *
 私は以前、ニュージーランド生まれのゲイル・リバースという傭兵を取材したことがある。世界最強とも言われるイギリス軍の特殊部隊「SAS」出身の男で、西側各国の諜報機関からテロ対策や要人暗殺の任務を依頼されてきた腕利きだ。1970年代のことだが、そのプロ中のプロであるリバースに、イギリスの諜報機関・MI6が、ある依頼を出した。

 それは、「カダフィ暗殺」。

 当時、リビア国内の油田を次々と国営化していったカダフィに、西側諸国は危機感を募らせていた。カダフィがアラブの盟主になることを恐れ、アサシン(暗殺者)を手配したのである。

 前金として成功報酬の半分を受け取ったリバースはエジプト側の国境からリビアに入った。昼間は灼熱の中を、夜は凍てつくような寒さの中、砂漠を進み続け、事前にカダフィが出没するという情報を入手していたスポットへと辿り着いた。

 カダフィは海外訪問時に宿泊場所としてテントを使うことで知られているが、リビア国内にいる間も神に祈りを捧げるためのテントを設営していた。リバースはそのテントのすぐ近くで、砂漠の砂の中に身を潜め、ターゲットが姿を見せるのを辛抱強く待ち続けたのだ。しばらくすると、入手していた情報通りにカダフィが現われる。その姿は写真や映像資料で確認してきたカダフィそのものだった。

 砂の中から飛び出したリバースは2丁用意していたブローニングの引き金を続けざまに引く。9発ずつの薬莢が空になるまで撃ち続けたリバースは、その全ての銃弾がカダフィに命中し、確実にターゲットの命を奪ったことを確認した。

 ミッションを果たし、追っ手から逃れたリバースは、再びエジプトへと戻る。ホテルの部屋でシャワーを浴びた後、ビールで喉を潤しながらテレビを点けた。

 リバースは、自分の目を疑った。

 確実に心臓を撃ち抜いたはずのカダフィその人が、BBCのニュース映像で、無傷のまま演説をしていたのである。映像は生中継のものだった。

 クライアントであるMI6に慌てて電話を入れたリバースは真実を知る。自分が銃弾で蜂の巣にしたのは、「ダブル(影武者)」だったのだ。

 カダフィ側は、テントの存在が西側諸国の情報機関に漏れたことを?んでいた。だからこそ、リバースほどの手練れも見抜けないほどの“精巧な偽者”を用意したのだった。

 この時リバースに殺された影武者を含め、カダフィには3人のダブルがいたとされている。つまり、今年に入りリビアで反体制派による暴動が起きて以降、カダフィの姿は何度かカメラに捉えられているが、それが本物だとは限らない。

 カダフィは180センチ近い長身でたくましい女性をボディガードとして常に周辺に配している。“カダフィ・ガールズ”と呼ばれる彼女たちと、カダフィ本人の身長を比べてみると興味深い事実が浮かび上がる。カダフィの身長は183センチほどだとされているが、時に護衛より頭一つ分、背が高く見えるケースがある。

 つまり、「本人よりも身長の高いダブル」の存在が見え隠れしているのだ。ちなみにボディガードが女性ばかりというのは、「男には寝首を掻かれるかも知れないが、女なら大丈夫」というまったくもって非合理的な妄想に端を発した現象である。

 独裁者が影武者を用意するのは歴史の常であった。暴力を用いてその地位に上り詰めた者は、自分もいつかは力によって退けられることになると恐れる。その疑心暗鬼に陥った結果、身代わりを用意するのである。権力者の悲しい性を表わしている。

 ※SAPIO2011年4月20日号

関連記事

トピックス

ロッカールームの写真が公開された(時事通信フォト)
「かわいらしいグミ」「透明の白いボックス」大谷翔平が公開したロッカールームに映り込んでいた“ふたつの異物”の正体
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン