スポーツ

なでしこはなぜ泣かないのか 澤選手が涙ぐんだ唯一のシーン

帰国2日後、「W杯は終わった話」と語ったMF宮間あや選手。これまでW杯やオリンピックでアスリートたちが流してきた大粒の涙を、なでしこたちは見せなかった。なぜ彼女たちは泣かないのか? 以下は、作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点である。

* * *
出国時は見送るサポーターなんてほとんどいなかったのに、帰国後は国をあげての大祝福。天国と地獄ぐらいの落差です。

なでしこを巡る大フィーバーに、選手たちも浮かれるのかと思いきや、実に淡々とした笑顔。多くの国民が涙を流して感激していたのとは対照的。

「なでしこの選手たちはぜんぜん泣かないんですね」と、テレビのコメンテーターもびっくり。優勝以上に、その姿に驚きを感じた人も多いのでは。

これまで、W杯やオリンピックなどの世界大会で優勝したアスリートたちが、過酷な努力と苦労を振り返って大粒の涙を流すシーンを、私たちはたびたび目にしてきました。 しかし、なでしこは違いました。

冷静さは、こんなコメントにも表われています。

帰国2 日後、「W杯は終わった話」と語ったMF宮間あや選手。「湯郷で日本一を目指す」「フィーバーはすぐ終わる。ただのフィーバーで終わらせないためにはピッチで表現し続けることが大事」。

宮間選手と言えば、優勝の立役者と言えるほど大活躍した人。決勝戦、アウトサイドで蹴り込んだ同点ゴールや、延長戦後半で澤選手への絶妙なアシスト。

ほれぼれするようなプレーで私たちを魅了しましたが、本人は美酒に酔うことなどなかったかのようです。

「泣くことも一種の快楽である」と言ったのはフランスの哲学者・モンテーニュですが、いったい人はどんな時に泣くのでしょう。

特に、人はなぜ、嬉しい時に泣くのでしょうか?

嬉し涙とは、それまでの過程で積もり積もった我慢、苦労、辛苦、心理的な負担や不安感から解放されたサイン。いわば浄化作用と言われています。

だとすれば、なでしこが泣かない理由は、明らかです。

今はまだプロセスの途上だから。
過去に浸っていないから。
未来に明確な目標があるから。
つまり、「前だけを見ている」からです。

ロンドンオリンピック、なでしこリーグ、日本女子サッカーの未来。そうした「具体的な課題」を見据え、乗り越える方法を必死に考えている。だから、過去の苦労を思って感情に埋没する時間など無いのです。

唯一、あの澤穂希選手が涙ぐんだシーンがありました。

7 月24 日に放送された「やべっちFC」(テレビ朝日)の中で、元なでしこジャパン、つまり彼女たちの先輩である加藤興恵、池田浩美、大竹七未が、なでしこの選手たちに心からメッセージを送ったシーン。

「女子サッカーの歴史を変えてくれて本当にありがとう」。

先輩からのメッセージを聞いた澤選手は、「涙が出そうです」とうつむいたのでした。「過去の辛苦」を振り返った時は、いくら強いなでしこたちだって涙ぐむ。まさしくその証拠です。

これまで、美しい涙はたくさん見てきました。

でも、前だけ見つめてひた走る姿、涙を流さない彼女たちの姿は、美しい涙を超えた「気高さ」すら感じます。その勇姿にシンパシーを感じる人たちは、今後ますます増え続けるのではないでしょうか。


関連キーワード

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン