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内股走りのなでしこ・鮫島 スパイクまで「内股」に置かれる

なでしこ不動のサイドバック・鮫島彩選手

ロンドン五輪の出場権を順当に獲得したサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」。キャプテンの澤穂希選手が多くの注目を集めるが、「なでしこ」は実に個性豊かな女性たちの集団である。ここでは、注目の新刊『なでしこジャパン栄光への軌跡 世界一のあきらめない心』を上梓したスポーツライターの江橋よしのり氏が、元福島第一原発事務員でもあるなでしこ不動のサイドバック・鮫島彩選手(モンペリエ)のエピソードを紹介する。

* * *
独特の内また走り(失礼!)と愛くるしい笑顔で男性ファンも多く、2009年にはなでしこリーグの『ファンが選ぶMVP』にぶっちぎりトップで選ばれた鮫島選手ですが、チーム内では時々イジられ役を担っているんです。大会中、選手たちはホテルの部屋の廊下にスパイクを立てかけて陰干ししています。各自きちんとそろえて並べているわけですが、いつのまにか鮫島選手のスパイクだけが向きを変えられ、「内また」の状態で置かれていることがあるそうです。イタズラの主は、なでしこジャパンのムードメーカー・大野忍選手でした。

また、W杯決勝戦のPK戦直前には、「PKを蹴りたくない。順番を最後にしてほしい」と直訴した大先輩の澤穂希キャプテンに対し、「ズルいですよ!」とすかさずツッコミを入れたのも鮫島だったそうです。あの時は、佐々木則夫監督の笑顔が選手たちの気持ちをほどよくほぐしたんですが、それにつられた鮫島選手のツッコミと、澤選手のツッコミ返しという一連のくだりがあったからこそ、あの奇跡の勝利が生まれたのかもしれません。

鮫島選手のポジションは左サイドバック。チャンスを嗅ぎ分け、長い距離を駆け上がり、左足でゴール前にセンタリングを上げる機会が多いんです。もともと右利きの彼女ですが、女子サッカーの名門・常盤木高校に入学当初、「ポジションを奪うには左サイドしかチャンスがなかった」という理由から左足の練習を必死にこなしたといいます。

努力の甲斐あって、今や世界チャンピオンのなでしこジャパンで不動のレギュラーとなった彼女は、ロンドン五輪予選もただひとり全5試合フルタイム出場しました。なでしこジャパンに入りたてだった3年前、「私の左足は“武器”じゃなくて、まだ“おもちゃ”なんです」と、はにかんでいた彼女からは想像できない活躍ぶりです。

また鮫島は、宮城県の常盤木高校から福島県の東電マリーゼへと進んだ選手でもあるため、被災地への思いは人一倍強いようです。「私たちの“あきらめない心”が、少しでも被災地の方々に伝えられたらいい」と、ロンドン五輪出場決定後の囲みインタビューでも答えていました。ビジュアルだけではなく、そういった健気さも、男性ファンが鮫島に心をときめかせる理由なのだと思います。

撮影■金子悟

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