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竹島問題で韓国と交渉は不可能 民間の日韓専門家会議が必要

新政権誕生によって、日本の領土をめぐる問題はどう進展するのか。日本が主導権を握るとしたら、どのような解決法があるのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、もし自分が野田首相に提言する立場にいたら何を提案するか? その4つの案を示した。

* * *
野田首相が、北方領土問題、竹島問題を解決し、尖閣諸島を奪取しようとする中国の野望を打ち砕くことを本気で考えるならば、周到な外交戦略が必要とされる。これらの問題は、事務レベル(外務官僚)によっても、外相によっても解決することはできない。

最終的に首脳の政治決断によってしか解決できない。それならば首脳の政治決断のために良好な環境を準備することが課題になる。野田首相が「私は外交交渉をマスメディアや記者会見を通じて行なうつもりはない」という立場を鮮明にする必要がある。

更に交渉に優先順位をつけることが必要になる。仮に筆者が首相官邸か外務省にいて、野田首相に領土問題に関するメモを提出することを命じられたならば以下の内容にする。

【1】中国による尖閣諸島奪取計画を阻止することを最優先の課題とする。中国は日本にとって顕在化した現実的脅威である。特に訓練用空母「ワリャーグ」を就航させ、海洋覇権を獲得しようとする中国の政治的意図を挫くことが日本の国益だ。

尖閣問題で日本が譲歩するならば、中国は力の政策を推し進め、日本を影響下に置こうとする。中国を牽制することを軸に、外交戦略を練る。

【2】日米同盟を盤石にする。中国を利する東アジア共同体路線との訣別を明確にする。その観点からTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加を急ぐ。TPPの本質は、自由貿易ではない。アジア太平洋地域におけるゲームのルールを日米が構築し、中国に受動的立場を強いるという帝国主義的な発想がTPP根底になる。この発想に乗ることが日本の国益を増進する。

【3】領土問題をめぐる露韓の連携にくさびを打ち込む。その観点から、北方領土における共同経済活動を早期に実施する。(外務省発行のパスポートでなく)内閣府発行の身分証明書で北方領土に渡航できる枠組みをつくり、北方領土が日本領であるという立場を担保した上で、経済活動においてはロシアの管轄に服する。

現行のビザなし交流においても、日本の訪問団は事実上、ロシアの管轄に服している。その事実を過去の領土交渉でロシアが悪用したことはない。日本政府が本格的に梃子入れして北方領土の日本化を進め、日本なしに現地の経済が成り立たない仕組みを作ることが領土返還の環境整備につながる。ロシアにとって北方領土における現実的パートナーが日本になれば、ロシアにとって領土問題をめぐり韓国と提携する利益が失われる。

【4】「独島」(竹島の韓国名)をめぐる領土ナショナリズムは事実上、韓国の国家神話になっている。竹島をめぐる本格交渉を韓国と行なうことは不可能という現状認識の下で外交戦略を構築する。政府は一歩引いて、民間の学識経験者による竹島/独島問題をめぐる日韓専門家会議を実施し、韓国の有識者に「客観的に見て、独島をめぐる領土問題が日本との間に存在する」という認識をもたせることを当面の獲得目標とする。

以上4点を踏まえれば、日本に有利な状況をつくりだすことができる。

※SAPIO2011年10月5日号

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