国内

首相の子分の手柄だった朝霞の公務員官舎 5年後に建設再開か

 きっかけは本誌報道だった。週刊ポスト9月30日号で財務省による「豪華官舎」の建設再開を報じると、野党が国会で追及し批判が巻き起こった。財務相時代に建設再開を認めた野田首相は、一転して「再凍結」の政治決断を下すドタバタ劇を演じた。この背景には根深い利権構造が潜んでいる。

 公務員問題に詳しいジャーナリスト若林亜紀氏が、レポートする。

 * * *
 総理大臣の目に入るのは、やはり国民ではなく、財務官僚なのかもしれない。

 10月3日、野田佳彦・首相は埼玉県朝霞市にある公務員住宅の建設予定地を視察し、「5年間の凍結」という判断を下した。だが、この「政治決断」に騙されてはならない。

 そもそも、これは野田氏の自業自得である。埼玉県朝霞市に総事業費約105億円を掛けて850戸の高層マンションを建設、3LDKで約4万円という格安家賃で官僚を住まわせるこの計画は、2009年に「事業仕分け」で一度は凍結されたものを、翌年、財務大臣になった野田氏が再開したワケあり物件だった。これが財務官僚から「野田さんの最大の功績」とホメそやされ、財務官僚の援護による野田政権誕生の原動力にもなったのである。

 しかし、首相就任前日にいよいよ現場の工事が着工されると、地元の反対派住民は必死で抵抗し、本誌をはじめとするマスコミが取り上げたことで疑問の声は国民にも広がった。国会で野党から問題視する質問が相次いだことで、野田氏はついに2度目の方針転換を迫られたのである。

 野田氏が慌てたのも当然である。同氏は、財務官僚のいいなりどころか、むしろ積極的に建設再開を後押ししていたからだ。

 朝霞市の政治関係者が語る。

「あの官舎は、地元選出の民主党代議士が財務省の政務三役に陳情し、建設再開が決まった。ただの官僚の横暴ではない」

 その代議士とは神風(じんぷう)英男・衆院議員。小沢グループである一新会の所属だが、松下政経塾出身で首相の後輩にあたる。しかも首相側近である武正公一・衆院議員の秘書だった人物で、野田内閣では初の政務官に抜擢された首相の子分だ。

 神風氏は今年行なわれた地元商工会の会合で、得意気に挨拶した。

「財務省で政務官に要請をしてきました。その結果、おかげさまで今回、事業が継続するという、予算がつくという形になったところであります。私の立場としてはこれを全面的に後押ししたい、応援したいと思っております」

 自分の子分の手柄として再開を決めた経緯があるからこそ、野田氏は他人事とはいえなかった。わざわざ現地に行き、「官僚社会の仁義」を通したうえで再凍結しなければならなかったのである。

 つまり、一度動き始めた事業を「再凍結」するために、多忙な首相が現地に行き、マスコミの前で前言撤回して恥をかくことではじめて、関係者への顔が立つ。そうしなければ、財務省は納得しなかったのだろう。

 だから、野田氏の言葉を普通の日本語として理解してはいけない。彼は確かに「5年凍結」といった。安住淳・財務相はそれに加え「幹部用宿舎は今後建設しない」「都心3区の宿舎は危機管理担当者用をのぞき廃止」を表明した。

 しかし、財務官僚が連日徹夜して考え出したこれらの言葉は、官僚の辞書では全く別の意味になる。その真意は、「建設は5年後に再開する、若手・中堅向けの宿舎は作る、都心の豪華物件はすべて危機管理担当者用にしてしまおう」ということなのだ。

※週刊ポスト2011年10月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

”ネグレクト疑い”で逮捕された若い夫婦の裏になにが──
《2児ママと“首タトゥーの男”が育児放棄疑い》「こんなにタトゥーなんてなかった」キャバ嬢時代の元同僚が明かす北島エリカ容疑者の“意外な人物像”「男の影響なのかな…」
NEWSポストセブン
クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン