国内

ネット解約で5人殺傷男に父「PC好きならPCの仕事を」と説教

14年間引きこもりだった男が家族からインターネットの接続契約を解約され、激怒した結果5人の家族を包丁で刺し、家に放火した「豊川一家5人殺傷事件」。長男・事件から1年半を経て初公判を迎えた岩瀬高之被告(31)はどのような半生を辿り凶行に至ったのか、ノンフィクションライターの小川善照氏リポートする。

* * *
高之には6つ下の次男、8つ下の三男がいる。学校にも仕事にも行かない兄は決して自慢の兄ではなかった。高之を疎んじることで二人は連帯した。 父・一美は高之と家で顔を合わせると、こう言った。

「お前そろそろ仕事せい」

だが高之は無言を貫いた。兄弟から無視され、父から叱責を受け続ける。その孤独を癒してくれるツールがパソコンだった。折しもネットが世界で脚光を浴び、「ボタン一つで世界と繋がる」と喧伝されていた。 もっともその闇の部分が指摘されることはまだなかった。

高之は一日中ネットを楽しみ、ニュースサイトから社会の「日常」を知った。この頃の高之に関する報道の中には、「高之が家庭内で暴力を振るった結果、家族の24、25万円の収入を全て管理し、両親に小遣いを与えていた」というものがある。だが、それは家庭内暴力の結果ではない。捜査関係者が明かす。

「まだ20歳前後の高之に一家の収入を管理させていたのは、父がATMをうまく使いこなせなかったからときいた。両親は二人とも金に頓着せず、金銭管理が苦手だった。母親からは、“やってもらって助かっていた”という証言すらありました。ましてや家庭内暴力なんて一切なかった」

近所では、折り合いの悪かった父・一美と自転車で外出する姿も時々見られていた。これは、銀行への振込みに、高之が付き添ったからというもの。金銭管理に関しては一美が高之を頼っていた様子が窺える。

一方、高之は同時期に親名義の銀行口座を新たに開設してクレジットカードの契約を結んだ。それがネットショッピングやネットオークションにのめり込む原資になった。アイドルの写真集やアニメDVDを買い漁り、特にネットオークションに嵌った。捜査関係者が続ける。

「“人に競り勝つのが楽しかった”と彼は語っている。ネットというバーチャル世界のやり取りなのに、競り落とせばリアル社会の商品として手元に届く。それが嬉しかったのではないでしょうか。競り落とした商品は家でほったらかして、使用することはなかった」

動作不良の家庭用コピー機、家庭用生ゴミ処理機、段ボール箱100個……高之がネットを通じて購入する対象は何でもよかった。一美は度々、注意した。

「いらないものは買うな。お前が食べるから冷蔵庫のものがすぐになくなる。荷物を頼むより、自分の食べるものを買いなさい」「そんなにパソコンが好きならパソコン関係の仕事を見つけろ」

だが、高之は無言を貫いていたのだ。
(文中敬称略)

※週刊ポスト2011年12月16日号

関連キーワード

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン