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被災地福島県の郷土料理「こづゆ」 思い出すと幸せになれる味

福島の「こづゆ」 幸せになる味

食事情に詳しいライター・編集者の松浦達也氏がニュースや著名人などに縁のある料理を紹介する「日本全国縁食の旅」。今回は福島の郷土料理に祈りを捧げる。

* * *  
この年末年始のニュースやメディアの見出しからは、どうしても「震災」「福島」という文字が目についた。新年の箱根駅伝の5区「山登り」区間で独走した東洋大学の柏原竜二選手(福島県いわき市出身)は「僕の苦しいのはたった1時間ちょっと。福島の人たちに比べたら全然苦しくなかった」と言った。

『ゆく年くる年』は被災3県からの中継が中心となり、年末の紅白では、「サンボマスター」の山口隆、「風とロック」の箭内道彦など福島県出身メンバーで構成された「猪苗代湖ズ」の熱演に、誰もが被災地への思いを新たにした。

福島県は大きくわけると、海沿いの浜通り、その内側にある中通り、さらに内陸にある会津という、三つの地域になる。内陸に位置する会津や中通りと、沿岸部の浜通りでは人々の気質や食文化も異なるというが、とりわけ内陸の人たちにとって正月や祝い事などの冠婚葬祭で欠かせないのが「こづゆ」という郷土料理。

そもそもは江戸時代後期から会津藩の武家料理として広まったごちそうで、ニンジン、サトイモ、ギンナン、キクラゲ、しらたき(糸こんにゃく)、豆麩を、干し貝柱とその戻し汁とともに煮含めたもの。

「お祝いの席で出される『ハレのごちそう』なので、会津の人にとっては楽しい記憶とセットになっています。家によって少し具は違うこともありますが、お正月には必ず食べる煮物というか汁物というか……。とにかく思い出すと幸せな気持ちになる、ごちそう料理です。味つけは薄めになっていて、客として呼ばれた席でも『お代わり自由』がお作法です(笑)」(会津市出身の会社員・♀・33歳)

会津塗りの小ぶりな手塩皿に盛られた「こづゆ」をつまみに酒を酌み交わすのが会津の正月なのだとか。内陸では、「海の物」を食卓に載せること自体がごちそうだ。山梨県の名産品「煮貝」もその昔、駿河湾で獲れたアワビを保存のために、醤油漬けにして甲斐国まで運んだ。そのうちにいい味わいとなり、名産品となった。独特の味わいで知られる栃木県の煮込み料理「しもつかれ」は、新巻鮭の頭と根菜の切れ端などを酒粕で煮込んだもの。

干し貝柱で出汁をとった汁に、その身も含めてお代わり自由というぜいたくが許された最上のごちそう。今年、「こづゆ」にまつわる幸せな記憶がひとつでも多く刻まれるよう祈りたい。


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