国際情報

櫻井よしこ氏 「中国は南北朝鮮を自らの影響下に置きたい」

経済的には困窮しながらも核兵器を交渉材料にして、大国と渡り合ってきた独裁者の突然の死。金正日の死去により中国はどう動くのか? ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、こう分析する。

* * *
中国の最大の目的は、北朝鮮の体制を維持し、最悪の場合、彼らが300万人とも見積もっている難民の流入を防ぎつつ、北朝鮮に自らの実質的支配を打ち立てることです。別の言い方をすれば、米国と韓国の影響を北朝鮮には及ぼさせないことです。

万が一、米韓の力が北朝鮮に及ぶような場合、中国は軍事的に介入すると考えるべきです。一番緊迫した事態は、中国軍の北朝鮮侵攻のシナリオです。

名目はどうとでも作れます。例えば平壌で暴動が起きた、難民が続々と国外脱出するなどです。「北朝鮮国内の治安維持に力を貸す」という名目も立つでしょう。中国は日清戦争での敗北が清朝中国の滅亡を招いたこと、それは朝鮮半島問題が原因だったことを忘れていないはずです。

だからこそ、中国は金正日の死後、国境地帯に約2000人の兵力を派遣しました。さらに3万人にまで増強すると言われています。

中国は2000年代のはじめから、いざとなれば武力で北朝鮮を支配する態勢を整えてきました。北朝鮮との国境につながる道路は戦車が通れるように完全に舗装され、国境の川である鴨緑江にすぐにいくつもの橋がかけられるよう、複数箇所に建設資材が置かれていることも確認されています。

もちろんそれを実行すれば国際社会の非難を浴び、経済にも大きな影響を及ぼしますから、表立って武力を使うことなく、硬軟使い分けて北朝鮮をからめとっていきたいのが本音でしょう。それでも必要とあれば武力を行使する。そのことを決して忘れてはなりません。

2003年頃から中国は「高句麗は中国の一地方政権だった」と主張し始めました。かつての高句麗は北朝鮮の領土とほとんど重なります。中国東北部の研究(中国では「東北工程」と呼びます)という形をとりつつ、「北朝鮮はもともと中国の領土だ」という理論を捏造し、北朝鮮占領を正当化するための伏線を張っているのです。

中国はすでに北朝鮮から日本海に面した羅津港を60年間租借し、日本海に直接出て行ける港を確保しました。中国の船は黄海から日本海に出て、朝鮮半島を西から東へぐるっと回って羅津港に入る。そこから津軽海峡を通って、太平洋やオホーツク海へ出て行っています。地球温暖化で北極の氷が解け、北極海航路が開かれた時のことを考えても、羅津港は中国にとって極めて重要な拠点です。

さらに北朝鮮は豊かな鉱物資源を有していますから、地政学的にも資源の面から言っても、中国が北朝鮮を手放すことは考えられません。また、前述のように、歴史を振り返れば、朝鮮半島を制するか否かは中国の命運を決定してきました。中国は朝鮮半島の重要性を肝に銘じているはずです。

あわよくば韓国を含めた朝鮮半島全体を自らの影響下に置きたい、かつての朝貢国のようにしたいというのが中国の思惑なのです。

中国は朝鮮人民軍にもパイプを持っています。もし金正恩が思い通りにならない場合、軍内部の反正恩派を軸に、権力を実質的に掌握する可能性さえあります。

中国への警戒心を強めているロシアも、前述のように金正日と首脳会談を行ない、北朝鮮経由で韓国にガスパイプラインを引く計画を進めるなど、極東において中国への対抗姿勢を示し始めています。北朝鮮が完全に中国に呑み込まれないよう、北朝鮮へのアプローチを強めるはずです。

北朝鮮の資源や権益をめぐる極東アジアの両者の争いは、今後、非常に激しくなることが想定されます。

※SAPIO2012年1月11・18日号

関連記事

トピックス

森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
どんな演技も積極的にこなす吉高由里子
吉高由里子、魅惑的なシーンが多い『光る君へ』も気合十分 クランクアップ後に結婚か、その後“長いお休み”へ
女性セブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
『教場』では木村拓哉から演技指導を受けた堀田真由
【日曜劇場に出演中】堀田真由、『教場』では木村拓哉から細かい演技指導を受ける 珍しい光景にスタッフは驚き
週刊ポスト