『ウコンの力』『ニンニクの力』に続いてハウス食品が送り出した『唐辛子の力』が好評だ。激辛の唐辛子の主要成分そのままに、全く辛くない飲料に仕上げた秘密とは?
「ものは試し。まずはこれを飲んでみてください。辛いですから少し舐めるだけでいいですよ」
ハウス食品ブランドプランナー・島下幸平氏が小さなコップを手渡した。中には無色の液体。おそるおそる舐めてみると、舌からのどに強烈な刺激が走った! げ、激辛だ!
それを見た、島下氏。今度は『唐辛子の力』のキャップをあけて手渡してきた。一気に口に流し込んだが、こちらは全く辛くない。
このデモンストレーションはなんだろう? いぶかしげに見る記者に対してすました表情の島下氏はこういう。
「実はどちらにも弊社の辛口カレー1皿分に相当する辛み成分『カプサイシン』が含まれているんです」
え? 同じ成分が同じ分量入っているのに、この味覚の違いは何なのか? と、考えているうちに体が腹部からポカポカ温かく感じてきた。
ハウス食品が2011年9月に発売した『唐辛子の力』は、唐辛子の辛み成分カプサイシンを使い、歩行時の体脂肪の燃焼を助けるという商品。発売直後からドラッグストアを中心に好調な売り上げを記録している。
「当社はスパイスに関わる技術とノウハウはどこにも負けない。『唐辛子の力』は口に含むと激辛なカプサイシンの成分はそのままに、辛くない飲料を目指したもの。我が社の技術力が結集された商品です」
島下氏は、同社の研究部門であるソマテックセンターに「カプサイシン」を、辛く感じずに摂取する方法を考えてほしいと要請した。
「普通ならあり得ないことだし、無理は承知のリクエストでした。しかしソマテックセンターにはハードルが高ければ高いほど燃える人がいる。このときも文句もいわず、引きうけてくれました」
ハードルの高い研究だから、長期戦は覚悟していた。研究員は、入手可能な20種以上のカプサイシンのサンプルを試したが、辛みを消失できるサンプルはなかった。ならばと、協力メーカーとタッグを組み、多種多様な加工法を試みてアプローチしようと考えた。
さまざまな組み合わせでできた試料を試飲すること数百回以上。あまりの辛さに悶絶することも一度や二度ではなかった。口の中が辛さでヒリヒリする中、研究員は歯を食いしばって頑張り、一歩も後退することはなかった。
2006年9月。ついにその時がきた。試飲をして欲しいと手渡された容器を一気に飲み干す。
「辛くない……」。視線をそばに立っている研究員に移すと、彼は両目をしっかりと見開いてこういった。「ついにやりました」。
別の目的で混ぜたある成分が偶然にも「カプサイシン」の辛みを抑え、そこにオリゴ糖を加えると飲むときに辛さを全く感じさせないというのだ。
その日から、さらに2年の歳月をかけて、改良を加え安定生産と量産化の道筋を整えた。柑橘系のすっきりした味は、激辛の唐辛子成分が入っていることを気付かせないものになっていた。およそ6年の歳月をかけて商品は完成した。
※週刊ポスト2012年2月24日号