国際情報

ユーロ危機 ドイツの負担増えれば離脱もあると専門家が指摘

 ギリシャのデフォルトによるユーロの「3月危機」は回避されるのか。回避されるとして、その後はどうなるのか。世界の注目がギリシャに集まる中、実はドイツの離脱によるユーロ消滅の可能性が高まってきたとエコノミストの浜矩子(はま・のりこ)氏は予測する。

 * * *
 去る2月13日未明、ギリシャ議会は、EU(欧州連合)などから求められてきた財政緊縮策を承認した。それと引き替えにギリシャがEUとIMF(国際通貨基金)から1300億ユーロの追加支援を受けられれば、3月20日に控える元本145億ユーロの国債の償還をこなすことができ、ギリシャのデフォルトによるユーロの「3月危機」はひとまず避けられる。

 2010年5月、ギリシャの財政危機を発端としたユーロ急落が起こって以来、ドイツはユーロを救うために最大の資金を拠出してきた。危機が発生してEUがすぐさま設立した欧州金融安定化基金(EFSF)は、最大4400億ユーロの加盟国保証付き欧州金融安定化債を発行できるが、ドイツの保証負担割合は増え、今では約48%を占める。

 その後、財政危機はイタリア、スペインにも飛び火し、危機に陥った国々を支える側だった両国は、支えられる側に転落してしまった。

 危機の拡大に対応するため、2011年11月にはEUの政策を実行する欧州委員会が「ユーロ圏共同債」の導入を提案した。ユーロ圏全体の信用で各国が資金を調達できるようにする、という構想だ。ドイツはこれに強く反対している。財政危機にある国の規律が緩んで再建が遅れ、結局ドイツなどの支援負担が拡大するからだ。また、ドイツ国債なら2%程度の利回りで発行できるのに、共同債となると少なくとも5%程度の利回りが必要になる。

 2012年1月には、期間限定のEFSFの後継として、欧州版IMFと言える常設の欧州安定メカニズム(ESM)が当初予定より1年早く今年7月に設立されることが決まったが、その分早期の資金拠出が必要となる。資金規模は5000億ユーロだ。

 年が明けると、事態はさらにドイツに負担増を求める方向に進んだ。1月14日、アメリカの大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズがEU加盟9か国の国債を格下げしたのだ。特に影響が大きいのは、ドイツと共同歩調を取って危機に対処してきたフランスの格付けが、最上位のAAAから1ランク格下げされたことだ。信用力が落ちれば資金調達力も資金供給力も落ちざるを得ない。

 本来、EFSFもESMも、EU全体で加盟各国を支えようという制度なのに、次第に歯が抜けるように支える側の国が減り、それと反比例して支えられる国が増えてきた。そして、最後はドイツ一国に頼らざるを得ないという事態に近づきつつあるのだ。

 そうなると、ドイツのユーロ離脱はいよいよ現実味を帯びてくる。なぜなら、ドイツは無尽蔵に資金を提供できる魔法の杖や打ち出の小槌を持っているわけではないからだ。

 それどころか、恐慌のような大きな危機は、必ず周辺部から起こり、次第に中心へと向かっていくものだが、すでに危機の波はドイツにまで及ぶ兆しを見せている。

 それを象徴するのが、2011年11月23日に行なわれた10年物ドイツ国債の入札結果だ。発行額60億ユーロのおよそ3分の1が売れ残るという大幅な札割れに終わったのである。ドイツ国債がこれほど売れ残るのは、1999年のユーロ発足以来初めてのことだ。EUの屋台骨すら市場から厳しい目で見られている。

 実際、ドイツは潜在的な危機の種を抱えている。例えば、ドイツの金融機関が大量のギリシャ国債を保有していることも、そのひとつだ。

 BIS(国際決済銀行)によれば、その額はフランスの約570億ドルに次ぐ約340億ドル(2011年秋のデータ)。ギリシャがデフォルトに陥ればこれは紙屑になるし、陥らなくても、民間金融機関は50%以上の債務放棄を強いられる見込みだ。アメリカの大手格付け会社ムーディーズによれば、ドイツの金融機関は、このギリシャ国債を含め、トリプルA以外の欧州国債を約875億ユーロ保有している(2011年第1四半期)。

 国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保有問題もある(CDSとは、国や企業のデフォルトに伴うリスクを対象とした金融派生商品で、デフォルトが起こった時、CDSの売り手は買い手に対して元本や金利に相当するものを支払う。一種の保険のようなもの)。

 実は、EU諸国の国債のCDSに関して、最大の売り手となっているのがドイツの金融機関で、約150億ユーロ分を保有している。この額はEUの中で突出しており、2位のイタリアの10倍以上だ。

 こうしたことから、万が一、ギリシャなどを端緒としてEUにデフォルトの連鎖が起こると、ドイツの金融機関は多額の損失を被る。そうなれば、ドイツ政府は金融機関を救うために公的資金の投入を迫られ、それは財政を悪化させる。そして、それがさらに国債を保有する金融機関の経営を悪化させ……と、財政恐慌と金融恐慌の無限ループへとはまり込んでしまう。万が一ドイツがそうなれば、それを救う手立てはEUにはない。

 現状でもドイツの財政は均衡しているわけではない。財政収支は2009年が3.0%、2010年が3.3%の赤字である。政府債務残高は、対GDP(国内総生産)比で2008年が66.3%、2009年が73.5%、2010年が83.2%と増加を続けている(欧州委員会発表の数字)。

 ドイツ世論の7割は支援額の増加に反対しており、連立与党内にも異論がある。メルケル首相はIMFを支援の輪に巻き込むなどしてドイツの負担軽減を図りつつ、国内の不満を宥めてきた。だが、さらなる負担増によって自らの財政状況が悪化し、しかもいっこうにユーロ危機が去らないようであれば、いつ見切りをつけてユーロ圏から飛び出さないとも限らない。

※SAPIO2012年3月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン