パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
7月のある日の午後7時、パリ西部の空にはまだ明るさが残っていた。激しい雨が上がった直後で、中心地から見てセーヌ川の対岸に広がるブローニュの森は、湿った空気に包まれていた。葉は濡れ、土は柔らかく、小道にはうすい霧が立ち込めている。ジョギングをする女性や、ヘッドフォンで音楽を聴きながら歩く若い男性、ベンチに座って鳥を眺める高齢女性。パリ市民の憩いの場になっているようだ。【前後編の前編】
「ブローニュの森には長い歴史があります。ナポレオン3世によって公園として整備され、1850年代には人造湖や庭園が造成されました。今も世界最高峰の競馬の祭典『凱旋門賞』が開かれるロンシャン競馬場も敷地内にあります。社交界の遊興地として栄え、フランス文学や美術においても、たびたび登場します」(在欧州ジャーナリスト)
しかし、市民が自然と静けさを求めて集まるこの美しい森には、実は“裏の顔”がある──。
前出の在欧州ジャーナリストは、「この森を一歩奥に踏み入ると、職を失った多くの売春婦が客を取る光景が馴染みのものとなっている」と明かすのだ。
「フランスでは第2次大戦後に売春宿が廃止されたことで、売買春の場が路上に移りました。もちろんリスクは高まりますから、2016年にフランス議会は売春婦の人道的保護の観点から買春禁止法を可決。買春行為そのものが違法となり、発覚すれば買春客に最大3750ユーロ(約64万円)の罰金が科されるようになりました。一方で、売春を行う人々は“犯罪者”ではなく、“支援”すべき対象として、売春行為は非犯罪化しました」(同前)
この方針転換には賛否が分かれ、フランス国内では議論が続いている。支持者は「買う側」を罰することで性搾取の根絶を目指したが、一方で売春婦たちの危険がより増したと指摘する声もある。
「例えば、隣国ドイツでは国として性風俗産業を認めているため、徹底した検査によって性病の蔓延を抑え、客もルールのもと、性サービスを受けています。
一方、フランスでは買春禁止法によって需要が激減し、性産業はアンダーグラウンドに潜らざるを得なくなった。対価は低くなり、無法地帯のような状況下で客が過激な行為を求めるようになるなど、セックスワーカーのリスクが増しているのが実態なんです」(同前)