国内

気仙沼市書店 床面積は3分の1減も再オープン日に1060人集結

 週刊ポストの連載「復興の書店」では、これまで被災地の書店や「移動書店」などの取り組み、地元出版社や被災した製紙工場を断続的に取材してきた。しかしその一方、沿岸部で津波被害に遭い、店舗そのものが流失してしまった書店では、再開しようにも長い時間と準備が必要だった。

 震災から一年が過ぎようとしているいま、それでも「書店」を続けようとしてきた彼らは何を思い、どう行動してきたのだろうか。テントでの営業、プレハブの仮設商店街、新しい店舗での再開……。様々な場所で新たな店を作り、一から棚に「本」を並べ始めた人々のもとを、ノンフィクション作家の稲泉連氏が訪ねた。

 * * *
 ──宮城県気仙沼市。

 市街地に向かう途中の県道沿いに、宮脇書店気仙沼店の新しい店舗「気仙沼本郷店」が完成したのは昨年一二月一三日のことだった。それからの準備を経て、同店がオープンしたのは二四日。建物には〈本ならなんでもそろう〉と書かれ、各々に楽器を持った動物たちの可愛らしい看板が掲げられている。

 そのデザインは市街地で骨組みを残して流失した店のものと全く同じであるため、以前から同店を利用してきた人々からは「昔に毎日見ていた風景が甦ったみたいだ」という声も聞かれた。

 昨年の五月以降、親会社である三菱自動車の販売店の横で、同店は週末に「青空書店」を開いてきた。取次のトーハンの協力を得て、テントの中に作られた仮設の小さな店舗には、当初多くのお客が詰め掛けた時期もあった。

「でも──」と店長の小野寺徳行さんは言う。

「肌寒くなった頃になると、お客さんも少なくなった。毎週広告を出し、話題の本や新刊の売れ筋を揃えても、お客さんがどんどん離れていくんです。やっぱりテントでは限界があるのかな、とずっと不安に思いながら続けてきたのが現状でした」

 家を失い、避難所や仮設住宅から店に通ってきた彼は、ときどき街のショッピングモールの中にある書店を訪れてみることがあった。そこでは人出も多く、彼は徐々に客足が鈍っている青空書店の状況を思い、何とも言えない悔しさを覚えた。

「何もできない自分に腹が立って、店舗が欲しいと心から思いました」

 同店を経営する千田満穂さんと紘子さん夫妻は、震災当初から書店の再開に強い意志を抱いてきた。だが仮設店舗での営業再開については、方針が二転三転していた。当初予定していたプレハブでの再開を止め、新しい店舗を建てることを決めた後、施工が開始されたのは一〇月に入ってからとなった。

「業者さんからは無理だと言われたのですが、どうにか急いでもらって一二月二四日のオープンに間に合わせたんです」と紘子さんは振り返る。

「実は私たちのお店がオープンしたのは平成九年の一二月二五日なんです。『復興を一日でも早く』という思いを込めて、前日までにはオープンしたかった」

 もう少しだね、これは本屋さんだよね──。彼女が工事現場の前にいると、建設途中の建物を見て道行く人々が声をかけてきた。そうして迎えたオープンの日、店にはクリスマスの恒例だったアンパンマンのきぐるみが用意され、昨年と同様に子供たちがそれを見るために集まった。以前に働いていたスタッフも再雇用され、彼女たちは開店前の店内で再会を喜んだ。床面積は以前の三〇〇坪から三分の一に減ったものの、初日には一〇六〇人のお客が訪れたという。

※週刊ポスト2012年3月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン