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福島原発事故 起きた問題のほとんどは専門家の想定内だった

 関西電力大飯原発の再稼働準備が急ピッチで進められている。野田佳彦首相が4月3日に新たな安全基準作りを指示すると、それから2日で基準ができ、それをもとに関電はわずか3日で安全対策実施計画(工程表)を提出したのだ。

 ここは国民の誤解も多い点だが、今回の原発事故で起きた問題のほとんどは、実は専門家の間では想定内のものだった。経済産業省の審議会は、2007年の中越沖地震を受けて、2009年に福島原発の安全基準だった5メートルを超える大津波の可能性を指摘し、原子力安全委員会のワーキンググループも全電源喪失によるメルトダウンの危険性を検討していた。
 
 それなのに経産省で原発推進に携わってきた官僚らの電力マフィアが対策を取らなかったことにこそ、事故の原因があったのだ。 今回の再稼働手続きそのものが、その愚を繰り返す所業であることは言をまたないが、より具体的な危険も眼前に迫っている。

 事故は想定内だったと述べたが、その中で、ほぼ唯一、専門家にとっても衝撃だったのが水素爆発である。メルトダウンによる水素発生は専門家にはよく知られていたものの、ベント(原子炉格納容器の弁を開け蒸気を排出する措置)によって原子炉建屋内部にその水素が溜まることは想定されていなかったのである。

 そこで関西電力は大飯原発に新たにフィルター付きのベント設備を設置するとした。建屋に水素がたまらないように穴を開けてベント用のパイプを通す工事だ。工程表では整備期限は3年後の2015年度までとなっている。

 福島第一原発3号炉を設計した原子炉技術者で、基本的には日本の電力供給源として原発を再稼働することに賛成の立場を取る吉岡律夫氏さえ、その工程表には危険な兆候を見いだす。

「炉心がメルトダウンするほどの大事故の際に、ベント設備で爆発を防ぐことができるかどうかは疑問です。ただし小規模の事故であれば有効だから、関西電力も安全対策上は必要と考えて設置することにしたのでしょう。それは無意味なことではないが、ならば、すぐ工事するべきです。建屋に穴を開けるのは比較的簡単な工事で多額の費用も必要としない。なぜ工程表では3年後なのか。

 福島原発は津波による全電源喪失の可能性が震災2年前に指摘されていたのに、対策を怠ったが故に大惨事を招いた。安全上重要と判断しながら、ベント設備を3年後に後回しにする関電の姿勢には、福島の教訓が何も生かされていない」

 どんなに慎重に万全を期しても、セキュリティ・ホールは必ず生じる。そのことを軽視したことが福島原発の最大の失態であり、同時に最大の教訓だった。野田政権の再稼働への暴走は、最も大切な安全思想が何一つ改善されていないことを如実に示している。

※週刊ポスト2012年4月27日号

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