ボロニヤソーセージと玉ねぎのしょうゆ炒め


 入ってすぐ右手の台。この日は5時半の段階ですでにそこにひとりいて、6時になる頃に3人になり、悠然と飲んでいる。
「毎日、開店の5時から1時間はここを取っておいてもらっているんだよ。どうせ、毎朝(彼ら独特の表現で、毎日の意)一番でだれかが来るんだけどね」
部署も年も違うが同じ会社の気の合う10人で10年前からここで飲み始めたという男たちだ。
「ここのところ還暦だ定年だって仲間が続いててね。お疲れさんのしゃれで椅子を出してお祝い? するんだけど、少ししんみりしちゃうよ。最近は5~6人しか集まんないし」

 一番奥の台は、毎週水曜日が指定席になる。
「ここは40~50代の同僚14人で構成する私たち立ち飲みクラブの席です。白髪あるいは髪がさびしくなっている人だけが入会できます(笑い)。店に来たらまず1人1000円の会費を台に置いたかごに入れるのがルール。きまって2時間以上はいますが、それだけで、たっぷり飲めて食べられますからね。あとは他愛ない角打ち会議。そして分科会(マージャン、カラオケ)かな」と、こちらは本日、46~57歳までの7人が集まった。

 都会のお花畑には、そんなディープなグループもいれば、いつもと帰り道を変えたらここにたどり着いた、とうれしそうに笑う角打ち初心者カップルも、溶け込んでいる。

「焼酎ハイボールって、甘くないところが気に入って飲み始めたんだけどね。試してみたら、缶のままで飲むのとグラスに注いで飲むのとでは味が違う気がするなあ。そのときの気分で飲み分ければいいってことだね」そんな新発見に喜ぶ、50代のベテランのんベエもいれば、つまみのうまさに惹かれて通う40代の本末転倒角打ちファンもいる。

「味の良さもそのボリュームも半端でないことが最大の魅力。おばちゃんが作ってくれるコンビーフオムレツとかボロニヤソーセージと玉ねぎのしょうゆ炒めとか、幸せを感じるメニューが山ほどあるんですよ。ぼくは花よりだんご、酒よりつまみです」
角打ちが10年前から、そしてこの幸せメニューが始まったのは5年前からになる。

「食材はすべて築地から。それを私がうちの料理長と呼んでる久慈節子さんがいろいろ考えて作ってくれる。これを目的に来てくれるお客さん、多いですねえ」

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