国内

首相を目標にしてきた石原知事 今回は最後のご奉公の思いか

 石原新党と橋下徹氏率いる大阪維新の会の連携・合流の可能性を、いまや日本中が固唾を呑んで見守っている。ついに動き出した石原慎太郎都知事だが、どのような思いから一歩を踏み出したのか、政治ジャーナリストの歳川隆雄氏が報告する。

 * * *
 現在、衆議院の解散総選挙に関しては、【1】6月21日解散→7月22日総選挙、【2】8月末解散→9月総選挙、【3】来年1月通常国会冒頭解散→1月末総選挙、【4】13年度予算成立後の4月初旬解散→4月末総選挙の4つが候補として挙がっている。しかし、民主、自民の現職議員の誰一人として早期解散総選挙は望んでいない。

 国政進出を目指す橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会と、石原慎太郎東京都知事を戴く「石原新党」という、2つの新しい勢力が巻き起こす旋風に吹き飛ばされてしまうという恐怖心があるからだ。

 特に俄かに再浮上した石原新党に関して言えば、この春から動きが急展開している。昨年末、亀井静香前国民新党代表が目指し始めたものの、4月12日には石原氏が「白紙宣言」。しかし、その後も情報はくすぶり続け、4月16日の石原氏のワシントン講演で新党結成が発表されるのではないかとの憶測が流れたが、周知のように、ここでは東京都による「尖閣諸島購入」発言が行なわれた。

 しかし、その後も新党結成への動きは止まっていなかった。たちあがれ日本の平沼赳夫代表が中心となり、水面下で密かに準備を続けていたのである。複数の関係者の話を総合すると、石原氏はゴールデンウィーク明けまでに新党結成を決断したようだ。実際、5月には様々な動きが表面化した。5月16日、石原氏が新たな政治塾の開講を宣言。23日には、たちあがれ日本の政治塾「かけはし塾」での講演で「若手の人材育成」を呼びかけ、「国政への復帰」の可能性を匂わせた……。

 世論も石原氏の決断を後押ししている。尖閣諸島購入計画発表後から石原新党への期待値は上昇し、6月11日~13日の世論調査では「期待する」(46%)が「期待しない」(44%)を超え(読売新聞)、6月21日には「期待する」(61%)が過半数を上回った(産経新聞・FNNの合同世論調査)。石原氏にとっては心強い結果ではないか。

 これまで石原氏は、政治的には自分が首相になることを究極の目標に置いていたと私は分析している。

 1996年に衆院議員を退いて政界を引退したのは首相の目がないことがわかったからだ。1999年に都知事になってから毎年のように石原新党結成の話を持ちかけられながら、結局動かなかったのも同じ理由だろう。そして「石原首相」実現の可能性の低さという点では今回も同じと思われるのだが、それでも新党結成に動いているのは、これまでとは違った目標があるからと思われる。私はそこに、石原氏の掛け値なしの「憂国の士としての思い」があると見ている。

 例えば野田首相は、「決断しない政治からの決別」を口にするが、財政再建などの内政、対中問題などの外交ともに、実際は先送りばかりで、日本の国力はジリ貧の一途だ。恐らく、石原氏はそうした状態を憂う気持ちが日増しに強くなり、自分が首相になれるかどうかは別として、国家に対して「最後のご奉公」をしたいという思いに至ったのではないか。

 新党宣言は6月になされる見込みだが、結党がこの時期となることにも「憂国の思い」が強く滲んでいる。6月には、17日のギリシャ再選挙によるユーロ発世界経済の混乱、北朝鮮による核実験、イランのホルムズ海峡封鎖……と、日本と世界を揺るがす様々な出来事が起こることが予測される。国難のその時期に自分が立ち上がらなければならない――そんな思いが石原氏にはあるのではないか。

※SAPIO2012年6月27日号

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