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あゆのライブや作務衣のラーメン店主にみる“ヤンキー性”とは

「あの人、元ヤン(元ヤンキー)なんだって」

 こんな噂話をすることはよくある。そして、そんな噂をすることでその人をなんとなく下に見つつも、それは必ずしも否定的ではない。昔はヤンキーだったのにいまでは真面目になっている、と聞けば、親近感さえ混じることも多い。

 そんなヤンキーという存在を解き明かした本が『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』(角川書店刊)だ。著者の斎藤環さん(50才)はテレビでもおなじみの精神科医。千葉・船橋市内にある診察室を訪ねると、本と雑誌の洪水状態で、雑然とした雰囲気になぜかほっとするものがある。

「最初に断っておきますが、非行とか不良という意味のヤンキーではありません。非行体験や不良体験があるかどうかでもない。あくまでも日本人の中に無自覚のうちに広く浸透している“ヤンキー性”なのです」(斎藤さん・以下同)

 いってみれば、「美学としてのヤンキー」であり、その美学を解くカギとして、斎藤さんは意外なものを次々とあげた。

「ふわふわのムートンやぬいぐるみ、イルミネーションや光りものへのこだわり。ルイ・ヴィトンの財布を持ってしまうセンスもそうなんです」

 ヤンキーとは何の関係もないと思っていた人も、ここまで聞くと、もしかして私も?と思い当たるのでは。これらを一目で見られる場所として、斎藤さんは、数年前に目撃した浜崎あゆみのコンサート会場をあげる。

 ヤンキーを想像させる車高の低い車が、ずらりと並ぶ。そしてそのナンバーには、ゾロ目などの強いこだわりが見える。

 車内には白いふわふわのファーが敷かれ、ファンシーなぬいぐるみが並び、ぴかぴかのラメやシールが貼られ、レイや神社仏閣のお守りもぶら下がっている。この光景こそが、ヤンキー文化だというのだ。

「もうひとつの例として、ラーメン屋さんの店主をあげるとわかりやすいでしょうか。作務衣や漢字のはいった黒いTシャツを着て、頭にはタオルを巻き、腕組みをして、“気合だ”“根性だ”という言葉で人生を語り、はたまた相田みつをなどのポエムを口にする。ここにヤンキー文化が凝縮しています(笑い)」

 ヤンキーは伝統をありがたがる。作務衣もラーメンも伝統だ。

「しかし、そのルーツは浅くて、作務衣にしてもたかだかここ20年くらいのものでしょう」

 と斎藤さんは手厳しい。

 同じくヤンキーが好きな『YOSAKOI』(高知県のよさこい祭りが全国に広まった、踊り主体の祭り。オリジナルの衣装を競ったり、創作ダンスコンテストもある)も、いかにも伝統的なようでいて、実はごく近年になって流行り出したもの。ポエムについては、「文学性はないし、表層だけで、本質はない」といい切る。

 また、仲間とのつながり、家族を大切にするという母性、早熟で婚期が早いのもヤンキーならでは。ヤンキーの根底にあるものは男性的なハードなものなのだが、これを女性的、母性的な感覚で包み込んで、広く深く伝えられてきた、と斎藤さんはいうのである。

 これをごく大ざっぱにいえば、ヤンキー美学とは、「一見こわもて、実はファンシーが好き」ということであり、斎藤さんの分析によれば、「個性よりも様式的、保守的で現実志向で家族主義、集団主義で、気合と勢いの反知性主義」とまとめられる。

「確固とした趣味性を持たない人が、この美学にいつの間にか取り込まれて、ヤンキー文化が浸透していくんです。ただ、ヤンキー文化が一概に悪いわけではありません。全国各地で行われている『YOSAKOI』や、『神戸ルミナリエ』をはじめとするイルミネーションは地域おこしに役立っているし、被災地ではボランティアが“気合”で頑張っています」

※女性セブン2012年9月6日号

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