ライフ

天才的な“音楽家脳”は遺伝と環境の相互作用により作られる

「天才」と言われる人は「特殊脳」を持つことがあると語るのは、『ホンマでっか!?TV』でお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏。ここでは、音楽界の天才の中でも筆頭に挙げられるであろうモーツァルトの脳を、脳科学的観点から分析する。

 * * *
 モーツァルトは、何しろ数百年に1人出るか出ないかの天才。彼は、典型的な「音楽的特殊脳」の持ち主でした。彼が残した非社会的で奇矯な言動は、その副産物であったと考えられます。

 現代の一流音楽家の脳を、失礼ながら“その他大勢の音楽家”の脳と比較した研究もいくつかあります。その結果わかったことは、優秀な音楽家は「音楽家脳」という独特な脳を持つということでした。

 音楽家脳の特徴は、専門的になりますが、局所的神経回路が密な一方で、広範な神経回路は粗いというものです。簡単にいえば、音楽に関係する脳領域(具体的には側頭皮質の上部領域など)の神経ネットワークが非常に発達している一方で、音楽にさほど関係しない脳領域の神経ネットワークがあまり発達していないということです。

 この連載で何度か触れたように、普通の人が、特に子供がピアノ演奏の練習をすると、音楽に直接関係しない神経ネットワークも発達し、語彙が増え「一般知能g」が向上することがわかっています。

 ところが、音楽的能力が天才的なレベルまで高まっている人は、神経ネットワークの発達に偏りが生じてしまいます。逆にいうと、そうした偏りが生まれないと天才的な音楽家にはなれないともいえるでしょう。

 音楽家脳の偏りは、幼少期からの音楽的訓練などでも生じますが、音楽的才能には遺伝性もかなり関係しています(約60~80%)。つまり、天才的な音楽家脳は遺伝と環境の相互作用によって作られるというわけです。

 モーツァルトの場合、父も母も音楽家という遺伝性と環境(訓練を含みます)により、典型的な音楽家脳を育んでいったといえます。そして、その音楽的特殊脳の特徴である「偏り」が、彼の奇矯な言動に結びついたと推測することができるのです。

 モーツァルトは、6人の子供を作り、4人が幼くして死去していますが、うち1人(フランツ・クサーヴァー・モーツァルト)は、作曲家になっています。

「音楽関連遺伝子」の存在が実証されてきているいま、優れた音楽家はいつの時代でも現れる可能性があります。現代にも、モーツァルトのような素晴らしい音楽家が出現することを楽しみに待ちたいと思います。

※女性セブン2012年9月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト