ライフ

小学館ノンフィクション大賞 優秀賞受賞者からの言葉を紹介

 第19回「小学館ノンフィクション大賞」が発表された。今回の特徴は、すでにプロとして実績を残している書き手の応募が増加したことだ。優秀賞を受賞したのは、フリーカメラマン・八木澤高明氏の『マオキッズ 毛沢東の こどもたちを巡る旅』。以下、八木澤氏の受賞の言葉である。

 * * *
 ちょうど今から11年前、西ネパールの暑かった夏の日々を昨日のことのように覚えています。

 へとへとになりながら山道を2日ほど歩き、谷間にある小さな村で、ネパール共産党毛沢東主義派の兵士たちを撮影したのですが、その中にノビナという名の女性兵士がいました。西ネパールの山村で生まれ育ち、15歳から兵士として戦っていた彼女は、私と出会った翌年の戦闘で呆気なく死んでしまいました。

「血を流すことは兵士としての義務なのです」

 あどけない顔をして、そう言っていた彼女ですが、正しくその通りに旅立ってしまったのです。

 農村から都市を包囲するという毛沢東のゲリラ戦術は、本家中国では既に忘れ去られ、毛沢東の肖像画が掲げられた天安門広場は観光地の色合いが強くなっていますが、アジア各国には毛沢東の遺伝子が脈々と受け継がれ、インドやブータンなどでもマオキッズたちは生まれ続けています。毛沢東は過去の遺物ではありません。

 ネパールからはじまり、フィリピン、カンボジア、中国、日本を巡った旅は、ノビナとの出会いからはじまったわけですが、時の流れは早いもので、この11年の間にネパールでは武装闘争が終わり、ノビナをはじめとする亡くなった兵士たちの記憶は薄まっていくばかりのようです。そのようなタイミングで名も無き人々の記録を残せる機会をいただけたことは、嬉しい限りです。ありがとうございました。

■八木澤高明/1972年神奈川県横浜市生まれ。写真週刊誌フライデー専属カメラマンを経て、フリーランス。2001年8月から2011年3月までアジアにおけるマオイストを取材。東日本大震災以降、福島に通い続けている。写真集に『フクシマ2011、沈黙の春』(新日本出版社刊)など。

※週刊ポスト2012年9月7日号

関連記事

トピックス

グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン