スポーツ

大学野球部の裏方選手 就職活動では「ヘッドコーチです!」

 全国の名だたる豪腕ピッチャーを訪ね歩き、「球の味」を文章に認める。“流しのブルペンキャッチャー”こと安倍昌彦氏。プロ、アマの垣根を越えて縦横無尽に取材を続ける安倍氏の野球人としての土台は、今から38年前、早稲田大学野球部でつくられていた。

 後に巨人のレギュラー捕手となる山倉和博(東邦高)、そして現早大監督の岡村猛らと白球を追いかけ、汗を流した彼が、試合に出ることのない「学生コーチ」の姿を追う。

 * * *
 学生の身分ながら、選手の指導や相手チームの分析を行うなど裏方作業に徹するのが学生コーチの仕事だ。最上級生の荒谷学生コーチがおどけながら言った。「就活では『ヘッドコーチ』って勝手に言わせてもらってます」番頭さんだね…と振ったら、きょとんとされてしまった。今の若者に「番頭」は賞味期限の切れた言葉のようだ。

 メリハリのある受け答えからはリーダーシップの一端がうかがえる。長い時間、日なたに立って、いい汗たくさん流してる。そんな焼け具合。笑顔が弾けている。

「4年生みんなに推薦されて、監督の承認をいただいてなるんですけど、ものすごく抵抗ありました、学生コーチって。せっかく早稲田に入ったんですから、選手として神宮に立ちたいじゃないですか。それが、ものすごくあって…」

 中学軟式の雄・桐蔭学園中ではスーパースラッガーだった荒谷学生コーチ。全国大会で活躍していた頃から知っているこちらとしては、彼の「本音」はスッと胸に落ちる。

「安倍さん、学生コーチやってて、何が一番辛いって、同期を叱らなきゃならないことですよ」

 練習メニューのプラン作り、新人戦の監督、学生コーチの仕事はいくつもあるが、その中でも、日常の練習の指導者的立場として、ノッカーやコーチとして選手たちを叱咤・激励する役回りも負っている。

「辛いです、正直。ミスだって、一生懸命やった上でのミスってこともわかってるんですから。でも、その場で『これ、言いたくないな。そこまで痛烈に言わなくてもいいかな』と思っても、そこで言っとかないと、必ずあとからそのツケがもっと大きくなって戻ってきます。ならば、今、言っておいたほうがいいと」

 火の粉をかぶる役回り。組織の「ナンバー2」にこういう憎まれ役をやってのけられる存在がいる組織は間違いなく強く、耳の痛いことを言ってくれる者ほど、実は誰よりも心強い味方なのだ。

「桐蔭学園高校でキャプテンだった時、まずい事があったら叱らなきゃいけない立場だったのに、下には言えても同期には言えなかった。自分、その後悔があるんです」

 同期が同期に叱られてるのを見たら、下はどう思う? しっかりせなアカンって思うやろ。下ばっかり叱ってる上級生なんて、そんなもん、信頼されるわけあらへん──そう諭してくれたのは、2年先輩の学生コーチだったという。

※週刊ポスト2012年9月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

女優のジェニファー・ローレンス(dpa/時事通信フォト)
<自撮りヌード流出の被害も……>アメリカ人女優が『ゴールデン・グローブ賞』で「ほぼ裸!」ドレス姿に周囲が騒然
NEWSポストセブン
豊昇龍、大の里、八角理事長
【八角理事長が「金星」を語る】大の里、豊昇龍が歴代最多配給ペースに! 理事長は「今は三役が少ないから。2横綱はよくやっている」と評価 現役時代の安芸乃島戦を振り返り「平幕の時は嫌な感じが…」とも述懐
NEWSポストセブン
次期衆院選への不出馬を表明する自民党の菅義偉元首相(時事通信フォト)
「菅さんに話しても、もうほとんど反応ない」菅義偉元首相が政界引退…霞が関を支配した“恐怖の官房長官”の容態とは《叩き上げ政治家の剛腕秘話》
NEWSポストセブン
ボニー・ブルーがマンU主将から「発散させてくれ」に逆オファーか(左/EPA=時事、右/DPPI via AFP)
「12時間で1057人と行為」英・金髪インフルエンサーに「発散させてくれ…」ハッキング被害にあったマンU・主将アカウントが名指し投稿して現地SNSが騒然
NEWSポストセブン
現地の“詐欺複合施設”(scam compounds)を追われる人たち(時事通信=AFP)
《“カンボジアでかけ子”日本人が13人逮捕》「空港に着いた瞬間に拉致」「 “詐欺複合施設”で囚人のような生活も」“国際詐欺組織”が日本人を闇バイトに引き入れる恐怖の手口
NEWSポストセブン
参政党は国政経験が乏しく、国会議員経験者を積極的に受け入れているという(時事通信フォト)
《参政党議席増で高市政権連立入りの可能性》 重婚疑惑に「このハゲー!」発言…自民党を追われた“すね傷議員”を続々擁立か「自民党に恩を売る絶好の機会」
NEWSポストセブン
巨人への移籍が発表された楽天・則本昂大(時事通信フォト)
楽天・則本昂大の巨人入りに大物OBが喝! 昨年の田中将大獲得に続く補強に「下の下のやり方。若手はチャンスがなくなりやる気が失せる。最低ですよ」と広岡達朗氏
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組が初詣に》“武闘派エルメス若頭の動向”に警察が関心…司忍組長不在の参拝で注目集まる「七代目誕生時期」
NEWSポストセブン
“マッサージ店”の元マネージャー、プンシリパンヤー・パカポーン容疑者(38)。12歳のタイ少女にわいせつな行為をあっせんさせた疑いがある(写真右:時事通信)
〈仕事の初日、客は1人〉〈怖くて手も腕も足も震える〉押収物の“日記”に綴られた壮絶な日々……12歳タイ少女に性的サービスあっせんの“ブローカー”タイ人女性(38)が検挙
NEWSポストセブン
中国出身の女性インフルエンサー・Umiさん(TikTokより)
「長期間歩かずにいたせいで神経に影響」クスリ漬け、歯を全部抜かれたのでは…中国ギャル系インフルエンサー(20)の現在の容態《“詐欺集団の幹部の恋人”説に本人が「以前はね」》
NEWSポストセブン
北海道日高町で店の壁の内側から遺体が見つかった事件。逮捕された松倉俊彦容疑者(49)、被害者の工藤日菜野さん。(左・店舗のSNSより、右・知人提供)
「2人の関係は公然の事実だった」飲み屋街で目撃されていた松倉俊彦容疑者と被害女性の“親密な関係” 「『嫁とはレス』と愚痴も」【日高・看護師死体遺棄】
NEWSポストセブン
島根県の私立松江西高校で男子生徒が教師と見られる男性に暴言や机や椅子を投げたりする動画が拡散されている(HP/Xより)
「謝れや、オラァ!」私服の生徒が暴れ、“おじいちゃん教員”は呆然と立ち尽くし…「炎上した動画は氷山の一角です」島根・松江西高校のOBが明かした“環境激変”の実情
NEWSポストセブン