ライフ

暗闇イベントに長蛇の列 デジタル時代とのギャップで人気か

江戸時代のあんどんのあかりを体験するようなイベントが人気

 24時間営業や「眠らない街」が珍しくなくなったことへの反動なのか、今、“闇”が人気なのだという。作家で五感生活研究所の山下柚実氏がレポートする。

 * * *
 しんしんと冷える初冬の夕刻。吐く息は白く、手はかじかみ、ホッカイロが欲しい。そんな中でびっくり。長蛇の列ができている! 11月24日、東京都小金井市・小金井公園の中の、江戸東京たてもの園。

 日が落ち月が輝き出すその頃、風変わりなイベントが始まりました。「民家で昔のあかり体験」。江戸時代に建てられた古い民家の中で、当時の明かりを再現する、というイベントです。

 まず、最初の座敷。ここは江戸時代のあかりです。あんどんが置かれています。あまりにも暗いな。ぼうっとした弱い光が、菜種油の灯心から放たれています。その照度は、ほんの豆電球程度。最初は暗さにとまどうけれど、しばらくすると、だんだんに見えてくる。ものがはっきりと判別できてくる。自分の眼力がパワーアップしていくような不思議な感覚。

 慣れれば、あんどんの光で筆の文字も読めるし、浮世絵も鑑賞できる。浮世絵の背景がキラキラっと輝く。雲母の微粉を用いた「キラ刷り」が反射している。キラ刷りという技法は、暗い中でも楽める光の仕掛けだ!

 次の間は、和ろうそく2本だけ。空気が動くと光も揺らぐ。ふらふらとゆれて、影を作り出す。火を見ているだけで飽きない。和ろうそくは、あんどんの「2倍」の明るさらしい。

 そして次の間は、いよいよ明治時代。近代的なランプの光へ。安定したその光は、ろうそくの2倍。新聞の小さな文字も読める。ランプの登場でさぞかし夜間の勉強ははかどったのでは。でも、ランプの光は安定しすぎていて、何だかつまらない。ランプを「事務的」と感じたのは、生まれて初めて。これも、江戸時代の光を体感したからに違いありません。

 次の間は昭和初期、電気が普及した当初の20ワットの裸電球。実に明るい。ふだんの生活なら、20ワットあれば十分いけるのでは。そして最後に100ワット、今の照明に戻ってきました。暗闇に慣れた目には、まぶしすぎる! くらくらっと目眩がしました。

 江戸、明治、大正、昭和と時代設定を変えた明かりを古い民家で味わうイベントは、発見だらけでした。なんといっても驚かされたこと。それは、こんな「地味な」イベントに大人から子どもまでが列をなし、押しかけていたこと。既存の施設も、使い方・演出を工夫して「独特の体験」を提供できればたくさんの人が集まってくる。デジタル時代だからこそ、アナログ感覚・肌感覚が際立つ体感・実感的イベントが面白いのかもしれません。

 実は、暗闇関連のイベントはここだけではありません。あちこちで多種多様なものが開催されていることをご存じでしょうか?

 お寺で「暗闇ごはん」というイベントを開催しているのは浅草・緑泉寺。視覚を遮断して嗅覚、味覚、聴覚、触覚をフル回転させる。それには「食べる」という行為が効果的というねらいだとか。

 一方、毎週「暗闇カフェ」を開催しているのは、国分寺の「カフェースロー」。店内の電気を消し蜜蝋ろうそくの灯りで営業。暗闇演出人による生演奏のBGMがいつもと違う響きに。その中で食事とお酒が楽しめます。

 もう一つ、暗闇といえばこれ。渋谷区内で2009年から長期開催している『ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)』。そのものずばり、暗闇体験を提供するプロジェクト。一筋の光もささない真っ暗闇の空間を進んでいくといくつもの新鮮な発見が…。すでに8万人が来場し、2013年4月には大阪でもオープンする予定ということからも、その人気ぶりがうかがえます。

 さああなたも、煌々と照られた明るい世界から、陰影際立つ闇の世界へ。眠った五感を目覚めさせてみてはいかが。

関連記事

トピックス

学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏(共同通信)
《“保守サーの姫”は既婚者だった》参政党・さや氏、好きな男性のタイプは「便利な人」…結婚相手は自身をプロデュースした大物音楽家
NEWSポストセブン
松嶋菜々子と反町隆史
《“夫婦仲がいい”と周囲にのろける》松嶋菜々子と反町隆史、化粧品が売れに売れてCM再共演「円満の秘訣は距離感」 結婚24年で起きた変化
NEWSポストセブン
注目度が上昇中のTBS・山形純菜アナ(インスタグラムより)
《注目度急上昇中》“ミス実践グランプリ”TBS山形純菜アナ、過度なリアクションや“顔芸”はなし、それでも局内外で抜群の評価受ける理由 和田アキ子も“やまがっちゃん”と信頼
NEWSポストセブン
中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
かりゆしウェアのリンクコーデをされる天皇ご一家(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《売れ筋ランキングで1位&2位に》天皇ご一家、那須ご静養でかりゆしウェアのリンクコーデ 雅子さまはテッポウユリ柄の9900円シャツで上品な装いに 
NEWSポストセブン