コンビニ等で「~円からお預かりします」という言葉が散見されるようになって久しい。われらの社会には他にも「ひっかかる言葉」がある。作家の山藤章一郎氏が、OL2人の会話に耳を傾ける。
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A子が叫んだ。「あたし、課長にコピー頼まれて、『いいですよう』っていったら、『てめえ、そんな返事があるか。分かりましただろ』って、わけわかんない」
B子:「ほんとあの課長。『あれ、どうなった?』って訊くの。『だからぁ、先週送りましたっていったでしょ』と答えたら『きみ、だからぁは、ないだろ。先週送りましたので、ご安心ください、とかいえよだって』馬鹿みたい」
11月、金曜の某夜。
東京駅前の新丸ビル・レストランフロアーで、新宿の裏路地に迷い込んだと錯覚した。暗い廊下、古臭い看板の下、ビールケースのテーブルで、サラリーマン、OLがデフレ酒をあおっている。
われらふたり連れの隣りの席。界隈の勤めらしき40代初めかA子B子の会話が耳を搏つ。モツ煮をつまみながらA子が「あたし、イラっときた」と上司に反発したのがきっかけだった。
ふたりはそれから、おのれのことは棚にあげ、「最近のイラっと言葉」を、箸を振りまわしながら槍玉にあげた。
「あたし、塗るつけまつげ買いにいったの。『カード使えますか』って訊いたら、『使えますけど』って。この『けど』ってのはナンナノよ」
「コンビニでいつも言われてイライラするのと、似てるかな。『こちらでよろしかったですか』って。ヨロシクねえよ」
「で、あたし、タグの値段見えなかったから『いくらなの?』って。したら店員『お値段は××のかたちになっております』って。ナンナノ? その、かたちって」
※週刊ポスト2012年12月14日号