スポーツ

山下泰裕氏 メダルと豊かな心実現の「スポーツ省」創設提言

 スポーツは秀でた選手だけのものではない。スポーツのすそ野を広げて日本を明るく元気にしたいというのは柔道家で、東海大学体育学部長の山下泰裕氏だ。同氏がスポーツを通じた国作りを語る。

 * * *
 勝ち負けを追求するスポーツではなく、気持ちよく体を動かして汗をかき、できれば大勢の仲間と一緒に行動するスポーツを通してストレスを発散する。そうやって鬱屈した精神状態にある自分を解放することで明日への活力が生まれる。同時にフェアープレーの精神が身に付き、礼儀やマナーを知り、戦う相手を敬う精神が心に宿る。

 チームの仲間と力を合わせてプレーし、相手の心を思いやりながら、一方では自分の意見をしっかりと伝える。意見が異なった場合には、真摯に議論を重ねて解決すればいい。そうすることで自然とコミュニケーション能力が培われる。

 私たちスポーツの世界にいる人間が、そういう心の育成ができる「生涯スポーツ」の振興に努めるべきだ。

 かつて、私は日本社会にはスポーツへの理解も敬意もないと不満を感じていた。それは政府や政治のせいだと考えていた。しかし、15年ほど前から考え方が変わった。それは私たちスポーツ家の責任ではないのか。私たちが自分たちの勝ち負け、メダルのことしか考えていなかったからではないのか。

 もちろん輝かしい結果を残すことを追求するのをやめてはいけない。だが、その一方で、スポーツ界は、スポーツを通じて人々が生き生きと心豊かに生きていける環境を提供する義務があるのではないだろうか。幸いにも最近では、若い世代のスポーツ選手たちが、どうしたら日本社会の役に立てるのか自ら考えるようになった。

 スポーツエリートだけで、メダル至上主義だけで、多くの人を巻き込める時代はすでに終わった。金メダルへの期待で社会からの協力が得られるのは発展途上国だけである。成熟した国家では、金メダル獲得以外の社会貢献をすることなしに、世間の賛同と支援は得られない。

 国民のスポーツに対する関心、理解を求めるうえでオリンピックは重要な位置をしめる。オリンピックで金メダルを取ることと、生涯スポーツによって国民の心身の健康を取り戻すことはセットになっている。

 スポーツから生じる感動が日本人の心の豊かさに直結する。これからのスポーツはそういう存在であってほしい。そのために私は「スポーツ省」の創設を提唱したい。競技を強化することだけが目的なのではなく、明るく活力のある日本と、芯の強い日本人の復活のためにスポーツの振興を担う。「スポーツ先進国・ニッポン」になるために必要なことである。

※SAPIO2013年1月号

トピックス

ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
プーチンと面会で話題の安倍昭恵夫人 トー横キッズから「小池百合子」に間違われていた!
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン