クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
「防衛省・自衛隊の力を借りなければ国民の命が守れない」と語った鈴木健太・秋田県知事の要請を受け、11月5日、県内でクマ対策のための自衛隊派遣が始まった。しかし、自衛隊の任務はクマの駆除ではなく、自治体職員・猟友会会員らが箱わなの設置や移動、エサの入れ替えや巡回などを行なう際の「後方支援」に留まる。銃器使用は憲法で厳しく制限されており、駆除のために撃つという武器使用も不可能だ。誰がクマを殺す役割を担うのか──。【前後編の後編。前編から読む】
自衛隊がクマ対策に当たるうえで、様々な制約をどうクリアするかという問題がある。自衛隊が「撃てる」ようになるための条件は厳しい。元陸自1佐で前参院議員の佐藤正久氏が言う。
「自衛隊法83条に基づく『災害派遣』であれば、同94条の定めにより、警察官同様、民間人や自分自身を守るために緊急避難として武器使用が認められる場合があります。警察官職務執行法4条には『狂犬、奔馬の類等』が出た場合に、他の民間人などを守るために、民間人がいなければ、自分自身の緊急避難として武器が使用できるとあります。しかし、それでもやはり自衛隊が駆除のために自らクマを索敵して(探して)撃つことはできません」
過去には北海道でヒグマの被害が頻発した際、自衛隊が「災害派遣」の枠組みで出動し駆除に当たったケース(1962年)や、トドの駆除で火器が使用されたケース(1967年)などがあったが、「多くは訓練の名目で行なったもので、コンプライアンスが問われる現在、訓練名目の獣害対応は現実的ではない」(同前)という。
今後、唯一可能性があるのが、“超法規的措置”としての「防衛出動」だ。
「クマがさらに凶暴化し、しかも20頭といった単位で現われるようなことが起きた場合、超法規的措置として防衛出動と同等の命令が首相から出ないとは言えません。防衛出動が出れば凶暴なクマ20頭がいる近隣に避難命令を出し、そのうえで駆除活動をします。火器を使うのは難しいでしょうが、最低でもエリアに包囲網を敷き、ゲリラに対する山狩りのような作戦を行なうことになると思います」(同前)
