スポーツ

金本知憲氏 ファンの六甲おろし歌う姿に支えられて頑張った

 昨年9月に阪神タイガースのユニフォームを脱ぐ決意を明かした記者会見で、「ホッとしたという気持ちが、かなりを占める」など、意外な言葉を次々と口にした「鉄人」金本知憲氏。

 苦悩を押し隠し、独り苦しみに耐えたからこそ、数々の栄光の記録が残ったということなのか。改めて金本氏に「もがき続けた野球人生」を聞いた。

──学生時代には早くから実力を発揮し、もっと自信家だったのでは? 自伝『人生賭けて』(小学館刊)では指導者から評価されなかったとも明かしている。「なにくそ」「見返してやる」というのもあったか。

金本:最初はそれもありましたが、そんな気持ちではプロは通用しません。何とか実力をつけようと、コーチに言われるまま1日1000スイングを1週間続けたこともある。

 当時は「何の役にも立たない」と馬鹿にされていたウエートトレーニングを取り入れたのもプロのレベルに追い付こうともがいた結果です。力のない自分が悪いと考え、期待してもらえるレベルに達するよう頑張るのが精一杯で、周囲を気にする余裕などありませんでした。

 若い頃は早く一人前になりたい、しっかり稼いで家族を楽にしてやりたい、いい車に乗りたい、きれいな女性と付き合いたい(笑)と思ってやっていたけれど、それはそれでいいと思います。むしろ若い選手はもっと野心を持って、ハングリー精神を剥き出しにするべきです。

 しかし、いつまでも「自分のため」だけでは「向上心」とは言えない。僕の場合、カープでレギュラーを獲ってから、モチベーションが少しずつ変わってきました。例えば「世話になった監督を胴上げしたい」という思いが強くなってきました。

──頑張る理由が個人からチームになった。

金本:もちろん個人的な数字目標もあるが、まず自分を使ってくれる監督を男にしたいと思いました。そして、優勝するためにどうすればいいかを考えるようになった。打って貢献したい、守って貢献したい、そして走って貢献したいと、今度は監督のために、がむしゃらに野球をした。

 阪神に移る頃には、もちろん星野(仙一)監督を胴上げしたいというのもあったが、中心選手として期待されていたから、もっと「チームのために」という思いが強くなった。

 赤星(憲広)が出塁すれば、盗塁させるために2ストライクまで打たずに見送ったり、ランナーを進めるバッティングに徹したりした。一・二塁間にゴロを打てば進塁打になる確率が高いから、引っ掛けやすい右ピッチャーのシュート系のボール球をわざと打ちにいくこともあった。

 4番として補強された選手が、こんなチームバッティングをするのかとチームメイトも驚いていましたね。

──数字に残らないチームプレーはファンや球団に評価されないことが多い。やはり求道者の精神のようだ。

金本:でも僕の場合、連続試合フル出場や連続無併殺記録を作るなど、チームに尽くそうという姿勢が記録に出てくれたから幸運です。野球の神様のご褒美かなと思っている。打率にも安打数にも関係ないのに全力疾走した結果である無併殺記録は最も誇りにしています。4番で作った記録ですしね。

 それから、ファンはちゃんと評価してくれたし、阪神ではあの熱烈なファンのために、というのも頑張るモチベーションだった。

 毎試合5万人近いファンが球場に来て、熱い声援を送ってくれる。たまには凄いヤジを飛ばされることもあったが、温かく支えてくれた。この人たちを喜ばせたい、六甲おろしを歌いながら気持ちよく帰らせてあげたいと素直に思いましたね。

※SAPIO2013年3月号

関連キーワード

トピックス

サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(時事通信フォト)
《総スカン》違法薬物疑惑で新浪剛史サントリー元会長が辞任 これまでの言動に容赦ない声「45歳定年制とか、労働者を苦しめる発言ばかり」「生活のあらゆるとこにでしゃばりまくっていた」
NEWSポストセブン
「第42回全国高校生の手話によるスピーチコンテスト」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
《ヘビロテする赤ワンピ》佳子さまファッションに「国産メーカーの売り上げに貢献しています」専門家が指摘
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《エプスタイン事件の“悪魔の館”内部写真が公開》「官能的な芸術品が壁にびっしり」「一室が歯科医院に改造されていた」10代少女らが被害に遭った異様な被害現場
NEWSポストセブン
香港の魔窟・九龍城砦のリアルな実態とは…?
《香港の魔窟・九龍城砦に住んだ日本人》アヘン密売、老いた売春婦、違法賭博…無法地帯の“ヤバい実態”とは「でも医療は充実、“ブラックジャック”がいっぱいいた」
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、インスタに投稿されたプライベート感の強い海水浴写真に注目集まる “いいね”は52万件以上 日赤での勤務をおろそかにすることなく公務に邁進
女性セブン
岐路に立たされている田久保眞紀・伊東市長(共同通信)
“田久保派”の元静岡県知事選候補者が証言する “あわや学歴詐称エピソード”「私も〈大卒〉と勝手に書かれた。それくらいアバウト」《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
「少女を島に引き入れ売春斡旋した」悪名高い“ロリータ・エクスプレス”にトランプ大統領は乗ったのか《エプスタイン事件の被害者らが「独自の顧客リスト」作成を宣言》
NEWSポストセブン
東京地裁
“史上最悪の少年犯罪”「女子高生コンクリート詰め事件」逮捕されたカズキ(仮名)が語った信じがたい凌辱行為の全容「女性は恐怖のあまり、殴られるままだった」
NEWSポストセブン
「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路とは…(写真/イメージマート)
【1500万円が戻ってこない…】「高級老人ホーム」に入居したある70代・富裕層男性の末路「経歴自慢をする人々に囲まれ、次第に疲弊して…」
NEWSポストセブン
橋幸夫さんが亡くなった(時事通信フォト)
《「御三家」橋幸夫さん逝去》最後まで愛した荒川区東尾久…体調不良に悩まされながらも参加続けていた“故郷のお祭り”
NEWSポストセブン
麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン