「箸で切れるやわらかなとんかつ」――。世にも名高い「とんかつまい泉」のもう一方の主力商品が『ヒレかつサンド』。総売り上げの約3分の1にあたる25億円を稼ぎだす、まさに看板商品だ。
現在、マーケティングを担当する宮坂潔(55)にとっても思い入れのある商品だ。
「私は以前、外為のブローカーをしていましたが、ものづくりがしたくて、インカム(マイクつきヘッドホン)から包丁に持ち替えました」
1998年に転職して最初の1か月間に配属されたのが工場。工員らが使うサンドイッチを切る包丁を研ぐことからスタートしたことは今でも忘れられない思い出だ。
その後、マーケティングを担当してからも、『ヒレかつサンド』の美味しさを多くの人に知ってもらうべく日々奮闘した。
『ヒレかつサンド』には素材にこだわり抜いているという自負があった。パンはもちもちとして、食べやすく、とんかつは体重100キログラムの豚から1キログラム弱しか採れないヒレ肉を使っていた。
1日1トンから1.5トンも必要だから、均一の品質のヒレ肉を安定的に仕入れることに常に目を配らなければならなかった。肉の調達先は年に1度見直す徹底ぶり。下拵えは、その肉の筋を一本一本取り除き、叩いて肉の繊維をほぐす丁寧なものだった。
専用ソースにもその思いは注がれた。
「秘伝のソースの命はトマト。トマトは出来不出来があり、糖度や渋みが異なる場合があります。味には徹底的にこだわり、ダメな場合はタンク一本分つくったとしても、使用することなく破棄することもあります」
●取材・構成/中澤雄二 (文中敬称略)
※週刊ポスト2013年3月8日号